2021年6月9日、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hatahway, BRK.B)がブラジルのNubank(ヌーバンク)に5億ドル出資することがわかりました。世界最大とも言われるデジタルバンクのヌーバンクには孫正義率いるソフトバンクグループも投資しています。非上場企業ですが、いずれ上場をめざすとしているヌーバンクとはどんな会社で、どんなビジネスモデルなのか、どこまで成長するのか、なぜ世界中の投資家が注目しているのか、さらには仮想通貨との関連性についても解説していきます。
今回は2021年6月9日に、バークシャー・ハサウェイが巨額の投資を決めたNubank(ヌーバンク)について解説します。
ヌーバンクのビジネスモデルとマーケット環境を詳しく見ていくと、ヌーバンクになぜ投資したのかがはっきり見えてきます。早期の新規上場も考えられるので、今チェックしておくべき企業です。
中南米最大のフィンテック企業 Nubankとは
ヌーバンクはスタンフォード大学出身のコロンビア人、デビット・ヴァレス(David Velez)氏が2013年に創業した、デジタル銀行です。本社はブラジル、サンパウロにおきます。今や中南米で最大のフィンテック企業になっています。
Nubankのビジネスの特徴と進出国
ヌーバンクのビジネスの基本は、「テクノロジーを活用して、Unbankedな人に金融サービスを届ける」ことにあります。Unbankedとは銀行サービスを使えない人、口座を持っていない人という意味です。
日本だと口座を持っているのが当たり前の感覚ですが、海外の国だとそうではありません。日本は口座維持手数料もかからないので一人で幾つも口座を持っていて、15歳以上で預金口座を持っている比率は2017年98.2%にも上りますが、例えばアメリカだと93.1%です(世界銀行、global fidex2017より)。
下図は世界銀行のグローバルフィンデックス2017より私がまとめた「15歳以上で銀行口座を保有している人の割合」を示したものです。保有していない人の割合に人口をかけて、銀行サービスを受けていない人を算出しました。これがヌーバンクの主な市場ポテンシャルになるわけです。
2017年 | 2014年 | 人口(100万人) | Unbanked | |
日本 | 98.2% | 96.6% | 125.36 | 2.26 |
アメリカ | 93.1% | 93.6% | 331 | 22.84 |
南米カリブ | 54.4% | 51.4% | - | - |
ブラジル | 70.0% | 68.1% | 211.42 | 63.43 |
メキシコ | 36.9% | 39.0% | 127.79 | 80.64 |
コロンビア | 45.8% | 39.0% | 50.88 | 27.58 |
アルゼンチン | 48.7% | 50.2% | 45.39 | 23.29 |
ペルー | 42.6% | 29.0% | 33.49 | 19.22 |
ベネズエラ | 73.5% | 57.0% | 27.95 | 7.41 |
チリ | 74.3% | 63.3% | 19.46 | 5.00 |
南米は日米と比べて銀行口座保有割合が非常に低く、南米・カリブ平均で54.4%、人口の最も多くヌーバンクが本拠を構えるブラジルでも70%に過ぎません。人口2位のメキシコは36.9%しかないのです。
そこで、ヌーバンクは所得が低く銀行口座を持てない人のためにサービスを開始しました。図表を見てわかるように、本拠のブラジルだけでも潜在顧客数は6000万人以上あります。スマホさえ持っていれば誰でも加入できるわけです。
同社は現在、デジタル銀行口座、クレジットカード、個人向けローン、生命保険などを取り扱っています。
まず最初にはじめたのがクレジットカードで、2014年に取り扱いを開始、年会費無料で、スマホアプリ上で全てを管理することができます。2018年にはデビットカードによる支払いも開始。翌19年には生命保険もスタートしました。
その2019年には、中南米でブラジルに次ぐ市場規模を持つメキシコに参入。潜在顧客数は8000万人以上と、本拠ブラジルをしのぐポテンシャルの高い市場です。20年には中南米で3番目の潜在市場を抱えるコロンビアに進出、急成長を続けています。
Nubankの資金調達
ヌーバンクは設立から5年目の2018年には企業評価額10億ドルを超える「ユニコーン」企業の仲間入りを果たしました。その後も順調に資金調達を進め、2021年6月にはあのバークシャー・ハサウェイが5億ドルの出資を決定、ヌーバンクの企業評価額は300億ドル(約3兆3000億円)に達しました。これは南米で4番目に企業価値の高い金融機関ということになります。
バークシャー・ハサウェイ以外でも、、中国のテンセント、ゴールドマンサックス、世界で最も多くのユニコーン企業に投資をしているタイガー・グローバル・マネジメント、アメリカを代表するファンドであるセコイア・キャピタルなど錚々たる面子がその出資者として名を連ねます。2019年6月には孫正義氏率いるソフトバンクグループも資金を出資しています。ウォールストリートジャーナルによれば、2013年以降、約20億ドルの資金を調達し、今回のバークシャーが最大の出資者となるようです。
Nubankはなぜ注目されているのか?
ヌーバンクはなぜ注目されているのでしょうか?
そのビジネスモデルの革新性を、既存の銀行と比較する形で見ていきましょう。
既存銀行の特徴と不満 Nubankの特徴
多くの銀行は、展開エリアに緻密に店舗網を敷くことで、利便性を提供し、そのエリアの消費者、法人を顧客にしてきました。つまり、新規出店(支店開設)こそが初期の成長戦略の鍵で、支店網を整備し切った後は商品開発と顧客開拓を組み合わせて成長してきました。しかし、インターネットバンキングサービスの普及により、いわゆる一般の銀行はこの緻密な店舗網が大きな足かせとなっています。何か得意分野に特化する形でビジネスモデルをガラリと変える必要があり、それには相応のリストラ費用を必要としています。
一方ヌーバンクは支店を持ちません。完全にスマートフォン上で顧客はサービスを完結できるよう作り込まれているからです。
そのため、ヌーバンクは重い店舗資産に投資することなく、テクノロジーと商品開発、顧客開拓に潤沢な資金を使うことができ、それによって急成長を実現できているのです。
また既存のブラジルの銀行は、借り手の信用が低い(貸し倒れリスクが高い)ため、膨大な利息を借り手に課しています。それではいくら資金需要があっても、既存銀行には頼みにくいという面がありました。そうした、消費者が抱える不満をデジタルとデータ分析により解決したのがヌーバンクというわけです。だから銀行口座を持っている人でも、デジタル感度の高い年齢の若い層を中心にヌーバンクの利用が広まっています。
無顧客をテクノロジーを使って顧客にしたNubank
何よりも、銀行サービスを受けられていなかった膨大な「無顧客」を、テクノロジーを使って、顧客化したビジネスモデルにあると私は考えます。
2021年初頭のヌーバンクの顧客数はすでに3400万人に達しています。しかし、その潜在市場は「Unbanked」の人だけでブラジルとメキシコを合わせるだけでも1億4000万人。これに銀行口座は持っているけれどもヌーバンクのサービスに惹かれる人も多数加わるので、今後の成長はまだまだ天井が見えていません。
Nubankのビジネスのこれからとバフェットが投資した納得の理由
最後にヌーバンクのこれからのビジネスを俯瞰しながら、バフェットが投資した理由について考えていきます。
Nubankと仮想通貨 ビットコインETF取り扱いを計画
現在ヌーバンクは仮想通貨の取引サービスを行っていませんが、DIGEST TIMEなど複数の記事によれば、「ビットコインのETF」を取引できるサービスの提供プランを持っているようです。実際、ヌーバンクのサイトを見ると、「ブロックチェーン」に関する記事投稿が増えており、同社が強い興味を持っていることがわかります。当然仮想通貨の本来の意義を考えると、デジタルバンクとの相性は非常に良いので、仮想通貨の取引を始めてもなんらおかしくはありません。
一方で、仮想通貨には、その信用に裏付けがないことから、ビットコインなど仮想通貨の普及、あるいはそもそも仮想通貨の存在自体に否定的な投資家は少なくありません。
その急先鋒がウォーレン・バフェットです。
仮想通貨を全否定するバフェットはなぜNubankに投資?
ではその仮想通貨を全否定するウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイはなぜヌーバンクに投資を決めたのでしょうか。
実は現時点でバークシャー・ハサウェイからは一切のコメントもリリースも出ていません。仮想通貨を認めないスタンスは変わっていないと思うので、デジタルバンク自体のビジネス創造型のスキーム、中南米というUnbankedの多いマーケットを抑えているという地の利、そしてテクノロジーを活用した新たな金融機関のビジネスモデルを構築している先見性から、今回の「5億ドルの出資は割安」と判断したものと考えられます。
Nubankは未上場だがいずれ上場へ
ヌーバンクは未上場企業ですが、世界中の有力投資家、投資会社がこぞって投資をしている事実は知っておく価値があると思います。そして今回の資金調達によりキャッシュリッチとなり追加調達はしばらく必要がないことを明らかにしています。
ウォールストリートの取材でヴァレス代表は「あるタイミングでヌーバンクは上場する」と明言しており、このままいけば超大型のIPO案件になることは間違いありません。その意味で、ヌーバンク、注目しておいて損はない企業です。近い将来、皆さんのポートフォリオに加わるかもしれません。