ほとんどの個人投資家はインデックスファンドを購入すべきだと書きました。一方でインデックスファンドが近年急速に勢いを伸ばすなか、インデックス投資に対する批判の声も高まるようになりました。
インデックス投資しかしないという人でも知っておいた方が良い、インデックスファンドにまつわる4つの不都合な真実をまとめました。
アクティブファンド の規模に近づく、インデックスファンド
インデックスファンドが純資産総額をどんどん増やしています。日経新聞が7月19日に報じたMorningstar Directの調査結果によれば、世界全体の運用残高は、アクティブファンド が2007年6兆ドル強だったのに対し、20年は約12兆ドルと倍増しました。一方、パッシブファンド(インデックスファンド)は07年に1.5兆円程度だったものが20年には10.6兆ドルにまで増えました。実に7.4倍に膨れ上がったのです。
インデックスファンドとアクティブファンド の運用残高の割合は、世界で半分以下の47%ですが、その割合は年々上がっています。このままいくと早期に運用残高ベースで逆転する日は遠くないと思います。
これだけインデックスファンドが優勢なのは、以下の記事でも書いた通り、多くのアクティブファンドが市場平均に勝てないからで、その傾向は超気になればなるほど顕著になります。
インデックスファンドとアクティブファンド の違い、多くの個人投資家はインデックスファンドを選んだ方が良い5つの理由は以下の記事でまとめているのでご覧ください。
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インデックスファンドとアクティブファンドの違い インデックス投資にするべき5つの理由
アクティブファンドとインデックスファンド--。1976年にバンガードが指数連動型のインデックスファンドを立ち上げ、その扱い高が増えていって以来、常に、「アクティブ(積極)運用かパッシブ(受け身)運用か ...
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とはいえ、インデックスファンドが流行しすぎたことがさまざまな問題や懸念を引き起こしています。そのことについて今回はまとめたいと思います。
インデックスファンドのリスク1 実は分散できていない
指数は、指数に含まれる全銘柄の時価総額を加重平均して算出されています。そのため、株価が上昇するとそれが指数全体の上昇につながり、加重平均されることで時価総額の大きい銘柄が与える影響が大きくなっています。
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不安定局面で強い超大型株、S&P100はS&P500を上回る!構成銘柄と利回り、ETF徹底比較
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上で解説した事例がいちばんわかりやすいですが、S&P500と、その中の上位100銘柄に絞り込んだS&P100をそれぞれベンチマークするETFで運用成績にほとんど差が出ていないのは、トップ100を占める超巨大銘柄による影響力が大きすぎるため。逆に言うと、残る404銘柄の影響力はほぼ誤差の範囲内と言えるまでになっているのかもしれません。
これを裏付けるのが、米国デンバーに本拠を置く投資アドバイス会社ナレッジ・リーダーズ・キャピタルが今年3月に出した「Being A Passive Investor Has Never Been So Risky(パッシブ投資家がこれほどリスキーだったことはない)」という記事です。その中で、S&P500を例に、「テックセクターにアルファベット、アマゾン、フェイスブック、テスラの4社を加えるとその比率は実に38%に上り、言い換えると、パッシブ投資家のエクスポージャーの38%は、1つのリスク要因に起因しており、たくさんの掛け金を一つの場所にベットしているようなものだ」と警鐘を鳴らしているのです。
さらに記事では、バリュエーションが高ければ高いほど、長期的には将来の期待リターンが低下しやすいので、ポートフォリオの38%が高バリュエーションの株式に投資されているパッシブ投資家の期待リターンは平均以下に固定されるとしています。もちろん成長率に応じてバリュエーションは見直されるわけですが、テックセクターの成長率は2006年以降低下傾向にあると指摘しています。
加えて、テック銘柄のバリュエーションは長期金利(=米10年債利回り)と逆相関の関係にあります。今後は長期的には金利が下落するよりも上昇する可能性が高いため、テックの高すぎるバリュエーションにプレッシャーを与えることになりそうです。
インデックスファンドのリスク2
割高な価格で買ってしまう
インデックスファンドの2つ目のリスクとして知っておきたいのが、「割高な価格で買わざるを得ない」というインデックスファンドの特性ならではの宿命です。
インデックスファンドがベンチマークする主だった指数は、時価総額に比例して組み入れ比率が決まります。そして、新たに指数に組み入れられる銘柄、外される銘柄は事前に発表されますから、投資家が先回りして、新規組み入れ銘柄を購入し、除外銘柄を空売りを仕掛けたとしても、インデックスファンド は割高な価格で新規銘柄を購入し、割安な価格で除外銘柄を売却しなければならないのです。
同様に、銘柄の配分変更のときも、同様に事前に公表されるので、それを狙われ、割高に買い、割安に売ることになります。
そもそもインデックスファンドは個々の銘柄が割安か割高かという判断基準を持っておらず、構成銘柄を決められた配分になるよう買っていくだけなので、割高であっても購入していくわけです。
とはいえ、そんな非効率なインデックスファンドにアクティブファンド は勝てないのは何故でしょうか。インデックスが勝つ理由は、「完全に効率化された市場」であるからのはずです。それでもインデックスファンドのほうが効率が良いということなのでしょう。
インデックスファンドのリスク3
投資に値しない企業にも資金が配分される
インデックスファンド は、指数に組み込まれている企業の株式を機械的に買っていくわけですから、投資に値しない企業、流動性の低い銘柄にも投資がなされることになり、株価が実際の企業価値と乖離した状態になってしまうこともあります。企業の淘汰を促す市場機能が働かず、市場全体のパフォーマンスが低下するリスクがあります。また当該企業に関しても、企業価値と乖離状態をしばらくはマーケットは放置しますが、ある時一気に調整に向かいます。そうなると株価は一気に崩れますから、インデックスファンドは取り残されることになります。これはインデックス投資家にとってはマイナスです。
とくに現行の東証一部市場は一度一部に指定されればその維持基準が極めて緩いため、TOPIXの対象銘柄であり続けることができます。長期投資家にとっては望ましくない結果になるわけです。
インデックスファンドのリスク4
ESG投資が機能不全に陥る危険性
インデックスファンドは指数に組み込まれている企業の株式を機械的に買っていくという性格上、温暖化ガス排出量が多いなどESG(環境・社会・ガバナンス)評価が低い銘柄も指数に組み込まれている以上、機械的に買われていくことになります。
ここで考えたいのは、インデックスファンドは「受け身(パッシブ)」であることで、自らが何かを変容させる力は持たないという点です。
したがって、今のようなESG投資黎明期〜過渡期は、インデックスファンドの存在がESG投資の進展を阻害する要因になり得ます。これは、現行のままでは間違いないことだと思います。
しかし、ESGが銘柄評価の重要項目の1つとして完全に定着した成長期においては、「後追い」というインデックスファンドの性格が、ESG投資の普及を後押しする強い推進力になり得ます。なぜなら、ESGが投資基準の一つになり資金が集まる以上、指数の構成銘柄・配分にも影響を与えるからです。
このように考えると、ESG投資がインデックスファンドの存在巨大化によって機能不全に陥るのは、一時的な現象に過ぎないと考えて良いと思います。
以上、インデックスファンドが膨張し続ける時代、インデックスファンドの持つリスクを知っておくことは、インデックス投資家を含む全ての投資家にとって大事なことだと思います。