経済・マーケット分析

米ミシガン大学の期待インフレ率でなぜ株価が大きく上げ下げするのか?

6月25日、株価は大きく反発しました。その理由として挙げられたのが米・ミシガン大学が発表した消費者信頼感調査の中で、「期待インフレ率」が予想を下回ったこと。これによってインフレが天井をつけたとすれば、FRBの金融政策もこれまでの激烈な引き締めが多少緩和することで、利上げペースが弱まり株価にポジティブになるという理論です。
ミシガン大が発表する「期待インフレ率」とはどういうもので、数字的にどんなインパクトがあるのか、なぜこれが重要な指数になっているのかについて説明します。

重要指数 ミシガン大学消費者信頼感指数

ミシガン大学消費者信頼感指数とは、アメリカ国民の消費マインド、景況感を示す経済指標です。毎月発表されるこの指数の結果次第で、景気の先行きに対する見方に影響を与え、株価が上がったり下がったりします。

これは毎月ミシガン大学の「Survey of Consumers」(サーベイオブコンシューマーズ)によって、全米の消費者500人(速報版は300人)を対象にアンケート調査を実施したもの。1964年の指数を100として算出します。

調査の内容は、現状の景況感を示す現場指数「Current Economic Conditions」が約40%、先行きを示す期待指数「Index of Consumer Expectations」が約60%で構成され、先行きを含めた米国の消費マインドを示す重要指標となっています。

ミシガン大学消費者信頼感指数の見方と注意点

ミシガン大学消費者信頼感指数の見方は単純です。指標が予想よりも高ければ消費・経済は順調とみなされ、予想より下回れば消費者が先行きに不安を抱いていたり、現在が不調であることなどを示します。なお、調査対象人数が500人と低いことから月ごとの振れ幅が大きいのが注意点です。コンファレンス・ボード(CB)が毎月発表する消費者信頼感指数(こちらの調査対象人数は10倍の5000人)よりも先に出ることから、ミシガン大学消費者信頼感指数は景気の先行指標として捉えられています。

ミシガン大学調査の「期待インフレ率」が急遽注目された理由

このミシガン大学のSurvey of Consumersでは、その指標の一つとしてUniversity of Michigan: Inflation Expectation (MICH、ミシガン大学期待インフレ率)というものを毎月出しています。これは消費者の調査結果をもとに算出した、今後5-10年の期待インフレ率を示したものです。

今回、この期待インフレ率が注目された背景はなんでしょうか。それは、FRBの利上げペースを推測するヒントとして、このミシガン大期待インフレ率に注目が集まっているからです。

6月24日発表のミシガン大期待インフレ率は予想5.4%に対して、5.3%。予想に対してわずか0.1ptのマイナスでしたが、市場はこれを好感して大きく反応。6月24日の3指数はダウ+2.68%、S&P500+3.06%、ナスダック+3.34%と大きくプラスに跳ねました。

ミシガン大期待インフレ率は、21年5月に4%を突破して以来、ずっと高止まりしており、22年3月以降はずっと5%台となっており、インフレの先行きが不安視されていました。ただ、22年3月に対前月比+0.5pt上昇の5.4%となり、4月も5.4%、5月は5.3%ときて6月は予想を下回っての5.3%です。4月をピークに少なくともさらなる悪化が見られない点をマーケットは好感したわけです。

将来の期待インフレ率が下がれば、現在予定されている各FOMCごとの0.75%ポイント利上げという観測が一歩後退することになり、株価にはフォローの風が吹くことが予想されます。

そんなわけでこのミシガン大期待インフレ率に注目が集まり、ビビットにマーケットが反応しているわけです。

とは言え、この3月以降のミシガン大期待インフレ率の推移を見ると、「きたインフレ率が高止まりしている」とも見ることができ、FRBのパウエル議長は「インフレ率がトレンドとして下がっていることを確認できるまで利上げのペースを緩めない」と言ってますので、現状のままだと0.75%の利上げが継続されるんじゃないかと思ってます。

ミシガン大学の「期待インフレ率」はどうやって決まる?

さてこのミシガン大期待インフレ率ですが、具体的にどんな質問項目からなっているのでしょうか?

質問事項がサイト内にあったので確認してみたいと思います。

  • 金利はどうなると思いますか?上がる、横ばい、下がる、わからない
  • 今後12ヶ月、物価はどうなると思いますか? 上がる、横ばい、下がる、わからない
  • 物価は今後12ヶ月の間でどの程度上がる/下がると思いますか?
  • 今から5〜10年後の物価は、上がる/下がると思いますか? 上がる、横ばい、下がる、わからない
  • 今後5〜10年の間に、平均して年何%物価が上がる/下がると思いますか?
  • 今後1〜2年、あなたの(家族の)収入は、物価上昇よりも上がる、ほぼ同じ、物価が下がるよりも下がる、と思いますか?
  • 今後12ヶ月、あなたの(家族の)収入は過去1年よりも高くなると思いますか、下がると思いますか?
  • 一般的に、今は家を買うのに良い時期/悪い時期だと思いますか?なぜそう思いますか?
  • 一般的に、今は家を売るのに良い時期/悪い時期だと思いますか?なぜそう思いますか?
  • 一般的に、家具や冷蔵庫、テレビなどの主要な家庭用品を購入するのに良い時期だと思いますか?ぜそう思いますか?
  • 今後12ヶ月、新車を買うのに良い時期だと思いますか?なぜそう思いますか?
  • 今後5年でガソリン価格は上がる/下がると思いますか?そのままですか?
  • 今後5年で今と比べて、1ガロンあたり何セント上がる/下がると思いますか?
  • 今後12ヶ月の間に、ガソリン価格は上がる/下がると思いますか、現在と同じですか?
  • 今と比べて今後12ヶ月の間、ガソリン価格は1ガロンあたり何セント上がる/下がると思いますか

などなど。これ以外にも、持ち家の場合の自身の家の価格がどの程度上がると思うかなど、実に多彩な質問の仕方で、今後のインフレについてあらゆる角度から消費者が感じている今とこれからを深掘りしています。

これら幅広い質問の回答から期待インフレ率を算出するわけです。

今後、金融政策はどうなるか?

ミシガン大学の期待インフレ率は、今後もFRBの金融政策決定の上で、重要な先行指数になることは間違いありません。ただ、期待インフレ率が現在のままの高止まりだと金利引き上げペースはそのままで、3ヶ月以上連続で期待インフレ率がしっかり下がっていることが確認されない以外は、FRBは金融引き締めの手綱を緩めることはないでしょう。

その意味では7月、8月発表の同調査の行方にかなりかかっていると言えるでしょう。

それにしてもミシガン大期待インフレ率を見るに昨年4月から急上昇し、そこから緩やかに上がり続けていることがわかります。その意味ではFRBは金融緩和の時期を引き伸ばし過ぎたとも言えるでしょうね。

補足・ミシガン大学とは

ここからは完全な蛇足。ミシガン大学は何校もあるということを知ってますか?ミシガン大学は米国屈指の研究型総合大学として知られるミシガン州立の大学で、いわゆるパブリックアイビーの1つ。ところがミシガン大学にはディアボーン校など複数あり、一般的にミシガン大学といったら「アナーバー校」を示します。

米国の大学は「カリフォルニア大学ロサンゼルス校」などという形で、特定の大学システム(ここではカリフォルニア大学でありミシガン大学)に属する学校がそれぞれ独立して運営(ここではロサンゼルス校やアナーバー大学)されています。したがって、同じ「ミシガン大」といってもアナーバー校とディアボーン校は別の学校ということになります(私がでたMBAスクールも同様で、他の系列校との繋がりはありませんでした)。したがって大学のレベルも同じミシガン大学でも結構違うことがあります(ミシガン大手言えば、アナーバー校が高名すぎる、他も優秀な大学です)。

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