経済・マーケット分析

2022年投資妙味のあるセクターは?金利上昇でなぜ株価は下がり、バリュー株が有利になるのか

2022年の最初の5日間は、猛烈な金利上昇で、2021年12月末日比較で、ナスダックは4.5%減、S&P500は1.87%減となった一方、ダウは-0.29%減に止まりました。なぜこのようなことが起こったのか?そして金利上昇局面でグロース株中心のナスダックはなぜめちゃめちゃにやられて、成熟したバリュー株であるダウは底堅いのかを説明し、本稿執筆時点で2022年に投資妙味がありそうなセクターを解説したいと思います。

利上げでグロース株が不利になるメカニズム

2021年後半からの猛烈なインフレを抑え込むために、FRB(連邦準備理事会)はテーパリングを急ぐとともに、利上げ回数を増やし、さらにはQT(量的引き締め)についても示唆しました(2022年1月公開のFOMC議事録より)。

これが何を意味するかというと、コロナショック以降含め米国株式マーケットを牽引してきた「グロース株」が主役の座から降りるということです。

なぜこれまでグロース株が主役だったかというと、コロナショックに伴う経済の不振から早く立ち直るためにFRBが大規模な金融緩和を行い、金利を大幅に引き下げるとともに、毎月1200億ドルに及ぶ金融資産を買い入れ、マーケットに大量のマネーを供給しました。これにより現金の価値が漸減し、逆に資産価値が漸増したことにより株価が高まりました。さらに、低金利であるがゆえに、グロース株のバリュエーション(評価)が高まったからです。

低金利であるがゆえに評価が高まった、とは?

この「低金利であるがゆえに評価が高まった」ということについて解説します。

株価は、一株当たり利益(EPS)と株価収益率(PER)の掛け算です。株価が1株当たり利益の何倍かを示すPERが高ければ高いほど、つまり高く評価されている銘柄ほど株価が高くなります。通常は14〜20倍程度が適正と言われていますが、グロース株の場合は50倍、100倍も当たり前の状況となっています。新しい産業を勃興したり新しいテクノロジーを使って既存産業を牛耳ってしまうことが期待される「ゲームチェンジャー」企業に対して、高い評価がつけられるわけです。例えばテスラのPERは驚きの1300倍です。

1300年も経たないと投資回収されないのになぜ投資するのか?それは、その株価に見合うだけ売上・利益が成長すると見ているから。グロース株は今ではなく「未来」の利益が評価されているわけです。

現在価値で考えれば高PERが容認されない理由がわかる

ここで考えたいのが、株価は、将来得られる全てのキャッシュフローを現在価値に割り引き直したものである、ということです。

この「現在価値に割り引く」というのがポイントです。投資家が欲しいと思える利回り(一般的にリスクフリーレート+銘柄固有のリスクプレミアム)が高ければ高いほど、将来大きな利益を生み出さなければ割に合いません。一方、投資家が望む利回りが極めて低ければ、それだけ低い将来利益でも許容されるというわけです。

ここで簡単な計算をしたいと思います。

10年後に必ず100万円もらえる債券を買うとします。それまでの間に得られるキャッシュフローはゼロ円です。この時、極めて低金利の環境だったので、投資家が求める利回りは1%だったとします。この時、債券価格はいくらでしょうか?

正解は、90万5287円です。

では、高金利の環境になって、投資家が求める利回りが10%になったとします。この債券はいくらになるでしょう。

正解は38万5542円です。

将来100万円もらえる債券価格は金利で大きく変わる
現在価値 利回り 期間(y) CF FV
¥385,543 10% 10 0 ¥1,000,000
¥905,287 1% 10 0 ¥1,000,000

現在価値は、将来いくらのキャッシュフローを生み出せるか以上に、金利によって大きく変わるわけです。となると、株価は将来得られるキャッシュフローの総額を現在価値に割り引いたものだと考えると、金利が上がれば上がるほど、「現在価値が減る=株価が下がる」ということになります。株価が下がるということは、EPSは変わらないわけですからPERが減る、つまり、高いPERが容認されなくなるわけです。
その結果、金利によって株式のバリュエーションは大きく変わってしまうわけです。

もちろん株価決定メカニズムは債券ほど単純明快ではなく、需給 (人気)で決まる部分がある(=高いPERが容認される)ので、ここからさらに人気が高まりみんなが買いに走れば、テスラ株が金利上昇局面でもPER1300倍を維持する可能性だってゼロではありません(あくまでも理屈の上での話です)。

2022年、株価はどうなる?
前提は、米国経済はすこぶる堅調

金利が低い環境下で、高い株価が付いたと言ってもそれは追い風参考。低金利というアシストがついた状態で遠くまで飛んでいたに過ぎないのです。

日本のように「低成長・低金利・デフレ」が常態化した不健全な国と違って、アメリカは基本的に毎年成長し、金利も高く、インフレが起こっている国です。リーマンショックやコロナショックのような一時的な経済危機のときには超低金利の金融緩和政策をとりますが、それ以外は景気のスパイラルに沿って、好景気に向かうサイクルでは金利は上がっていくのが普通です。

忘れてはいけないことは、米国経済は不況ではなく、力強い消費に支えられ経済状況は好調であるということ。世界的なサプライチェーン分断の長期化がインフレの高止まりを許しているものの、米国では人々の賃金も上がり、今のところその値上げを受け入れられる状態にあります。

したがって、基本的には企業業績が良く、利益をアナリスト予想よりもさらに伸ばし続け、将来の事業環境に不安がなければその企業の株価は安泰であると考えられます。

株価を決める最も大きな要因は金利

ただ、金利が1%も違えば将来得られるキャッシュフローの現在価値は大きく変わってくるわけですからそこは計算してみることが重要です。先程の債券の例では、1%から2%に金利が1%ポイント上がるだけで価格は約10%も下がりました(下図参照)。それくらい「金利」のインパクトは強いものなのです。

金利が1%違うだけで債券価格は10%も下がる
現在価値 利回り 期間 CF FV
¥905,287 1% 10 0 ¥1,000,000
¥820,348 2% 10 0 ¥1,000,000

2022年、FRBは政策金利を3回引き上げることを規定路線としており、その1回あたりの利上げ幅も当初の「0.25%ポイント」になる保証はなく、それよりも上がる可能性を指摘する声も高まっています。それによってPERの見直しに伴う株価下落が起こるため、いずれにせよ2022年は簡単に儲けられる年ではないでしょう。

2022年ダメなセクター、良いセクター

とくにPERの高いグロース株を中心とする投資で利益を上げるのは難しく、低PERの安定セクター、バリュー株を中心とするETFを中心に、高い配当を得ながらじっと我慢する一年になると思います。

株価の先行きに不透明感が漂うグロース株には、いわゆるビッグテックも含まれます。ブルームバーグによると、2021年GAFAMの時価総額は何と2.5兆ドルも増えました。S&P500の時価総額の約2割をGAFAMが占めるわけですから、その影響はとても大きい。ただし、残り8割の中にはバリュー株もふんだんに含まれていることを考えると、指数全体として総崩れになる見込みは薄いと思います。

ただ、ナスダック100に限るとリスクは高まります。GAFAMにバリュエーションの高すぎるテスラを加えると構成比で5割を超えます。人気のQQQ(インベスコQQQトラスト・シリーズ1)はまだしも、レバナス (iFreeレバレッジNASDAQ100)などは2022年かなりダウンサイドリスクが高まっていると言えそうです。

一方で、金利上昇局面に強い金融セクター、インフレ局面でも値上げできるエネルギー、素材などは投資妙味があると思います。また、そもそも金利上昇が激しい米国株式からマネーが逃げていくことも想定されます。2022年1月に出されたブルームバーグの記事によると、そのマネーの行き先は「欧州」で、記事内ではゴールドマンサックスの予測だとして「割安な欧州の銀行、エネルギー株」に投資妙味ありだそうです。

2022年は難しい1年になりそうですが、やり方次第。大事なことは大きな指数に突っ込んでおけば簡単に2桁のリターンを得られた20年21年から頭を切り替えること。マインド・リセットが大事な1年ですね。

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