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高配当だけに惑わされるな!JEPIの仕組み、リスク、QYLDとの比較、買い方を徹底解説

2021年11月6日

今回は超高配当ETFの1つとして注目が高まっている、JPモルガン・米国株式・プレミアム・インカムETF(JPMorgan Equity Premium Inco、ティッカーシンボル:JEPI)について解説したいと思います。分配利回り13.4%とかなり高く、この株安局面でも直近1年のトータルリターンが-0.37%と踏ん張っている優秀なETFです。リスクや落とし穴、危険はないのでしょうか?かなり複雑なETFなので、その仕組みを明らかにするとともに、買うべきか、それとも買わなくても良いのか、買うならどんな買い方が良いのかを解説します。ポートフォリオの一部でオプション取引を債券を通じて行うという特殊なETFであるJEPIの本質を明らかにします。

新たに注目集まる高配当ETF、JEPIとは

投資フェーズや方針にもよりますが、多くの人は高配当ETFが大好きだと思います。実際SBI証券の人気米国ETFランキングなどを見ても、VYM (バンガード・ハイディビデンド・イールドETF)が買い付けの人気ランキング上位に入っています。

そうしたなか、新たに注目が集まる高配当銘柄として、今回解説するのが、JPモルガン・米国株式・プレミアム・インカム ETF(JEPI)です。

2020年5月にスタートしたETFですが、日本の証券会社では楽天証券、sbi証券、マネックス証券が21年10月下旬ごろから取り扱いがスタートし、インカムゲインを重視する投資家の間で密かに話題になっています。

2022年7月10日時点の配当利回り(年率換算)は13.42%。QYLD(Global X NASDAQ 100カバードコールETF)のおよそ11.72%を上回る、高いインカムゲイン利回りを得ることができるETFです。

2年強しか歴史のないETFではありますが、過去1年の平均リターンは-0.34%。この株安局面では非常に堅牢なETFだと言えるでしょう。

ちなみにQYLDの1年トータルリターンは22年7月10日時点で-10.19%なのでJEPIが10%ポイント程度上回っています。ただし、高配当のVYMは過去1年のリターンは1.83%とこの局面でもプラスとなっており、JEPIは見劣りします。

JEPIの概要と保有銘柄

JEPIの概要は以下の通り。1つの枠に数字が二つある場合は、21年11月実績→22年7月実績です。比較してみると面白いことが見えてきます。

JEPI QYLD VYM
銘柄数 103 103 411
ファンド総資産(10億ドル) $4.52→$10.39 $5.1→$6.8 $40.5→$44.5
上位10銘柄構成比 19.05% 54.25% 24.10%
経費率 0.35% 0.60% 0.06%
直近配当利回り(税込) 7.49%→13.42% 10.45%→11.72% 2.71%→3.31%
年間平均リターン(1年) 21.40%→-0.37% 14.62%→-10.19% 36.23%→1.83%

JEPIは特殊なETFのため経費率は0.35%とややお高めですが、QYLDよりは安い。ファンド総資産は21年11月時点ではQYLDの方が大きかったのですが、JEPIが逆転。わずか8ヶ月で55億ドルもの資金を集めました。QYLDは停滞しており、VYMは安定的に増えています。

直近リターンで驚くのは、QYLDの凋落ぶりとJEPIの堅牢ぶり、そしてVYMに至ってはいまだプラスリターンを継続しているという強さです。直近配当利回りはどの株価も落ち込んでいるため、相対的に利回りが上がっていますが、QYLDは株価の下落に比べて配当利回りの伸びは低く、だいぶきつそうだということがわかります。

そして特徴的なのがJEPIの保有銘柄。上位10種は以下の通りです。

21年11月時点 構成比 22年7月時点 NEW 構成比
1 SPX_16 2.38% プログレッシブ・コープ 1.75%
2 SPX_18 2.31% アッヴィ 1.64%
3 SPX_15 2.13% ユナイテッドヘルスグループ 1.62%
4 SPX_17 1.93% ブリストルマイヤーズ 1.59%
5 SPX_14 1.86% ハーシー 1.59%
6 マイクロソフト 1.75% コカコーラ 1.57%
7 オールドドミニオンフリート 1.72% ペプシコ 1.46%
8 イントゥイット 1.67% オールドドミニオンフリート 1.45%
9 アクセンチュア 1.66% アルファベット(グーグル) 1.44%
10 アルファベット(グーグル) 1.64% マイクロソフト 1.43%
19.05% 15.54%

2021年11月時点で上位5つを独占する「SPX_**」はそれぞれ償還期限が異なる、後述するエクイティリンク債(ELN)です。それ以外は、マイクロソフトやアクセンチュア、アルファベット(グーグル)などのアップサイドが期待できる大型銘柄となっていました。

22年7月現在では、それらELNの割合は大きく減り、上位10銘柄からは消え、プログレッシブ・コープ、アッヴィを筆頭にいわゆる一般銘柄が上位10をしめます。マイクロソフトとオールドドミニオンフリート、アルファベットの3社は変わらず上位に名を連ねています。

JEPIの特徴とは ELNを通じたコールオプションの売り

JEPIは、コールオプションの販売と米国大型株への投資を組み合わせて収入を生み出し、オプションプレミアムと株式配当から月額の分配金を作り出すETFです。

微妙に違いますが、単純にいうと、オプションの受け手としてオプションプレミアムを積み重ねるQYLDと、S&Pの大型銘柄に投資するiシェアーズ S&P 100 ETF(OEF)の両方の特徴を持ち、それぞれで補い合うETFと考えるとわかりやすいかも知れません。

QYLDはナスダック100のアップサイドを諦める代わりに、オプション収入を積み上げて配当原資にしているETFでしたね。

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JEPIは、コールオプション取引をベースとしたELN(エクイティリンク債)を活用して、高利回りのクーポンを得つつ満期に債券を償還、マイクロソフトなどの複数の大型株を保有し、そちらでキャピタルゲインを狙うという構造になっています。

コールオプションの販売は、対象株価が大きく上がった時に損失価格が極大化する(=S&P500が大きく上がった場合損をし、オプションの販売手数料のみ手にできる、QYLDは対象株式を現物保有すのでその売却でカバーする)反面、S&P500が下がった時、オプションは行使されないので、オプションの販売手数料を満額手にできるものです。

JEPIはこの仕組みを、ELNを活用して行います。その一方で、アップサイドリスクはポートフォリオの8割を占めるS&P500の大型株へ投資して賄うのです。

ELNとは何か?

では、ELNとは何でしょうか。これは、仕組債の一種で、対象銘柄(JEPIの場合はS&P500)の株価に応じて、元本償還時の価格(やクーポン)が変化する金融商品です。

JEPIの仕組みと本質 ELNを通じてコールオプションを販売

ELNを通じたコールオプションの販売は基本的には、

①満期日の価格<行使価格の時
オプションは行使されず、売り手は当初の額面価額の満額を受け取る

②満期日の価格>行使価格の時
オプションが行使されるので、売り手は当初の額面よりも低い額を受け取る

というものです。ELNだけだとS&P500が上がった時、損をするわけです。

JEPIのボラティリティを抑えるカラクリ

JEPIは、S&P500よりもボラティリティを抑えることを目的とするETF。そのためにELNの構成比率を最大2割に限定するとともに、異なる満期日のELNを複数所有します。そして、残る8割はS&P500の大型銘柄を保有します。

これによって、

①S&P500が大きく値上がりした時

8割の保有株式の値上がり幅 > ELNの損失
となり、JEPI自体の株価が上昇

ただし、
8割の保有株式の値上がり幅 – ELNの損失分にアップサイドは限定。
つまり普通にS&P500を購入するよりもアップサイドは小さくなる。

一方、

②S&P500が大きく値下がりした時

8割の保有株式の値下がり幅をELNの満額受け取り分が補填

つまり普通にS&P500を購入していた時よりも、損失が小さく済む。
これによって、アップサイド、ダウンサイド両方のリスクを抑えている。

JEPIのリスクと魅力〜リターンの推移で分析〜

このようにJEPIは極めて高配当でありながら、キャピタルゲインも望めるユニークなETFとなっています。

ただ、注意したい点があります。

ボラティリティが低いということは、ダウンサイドだけでなくアップサイドも低い点です。

例えばコロナショックのように、一気にドーンと落ちて、その後急回復した場合、多くの指数はコロナショックから1年半が経過した今、当時の価格を大きく、大きく上回っているものがほとんどです。

JEPIの場合はどうなのかを確認したいところです。しかし、この銘柄はコロナ後に組成されたものなので履歴がありません。

JEPIの代わりにJEPAXでコロナショック前後を分析

そこで、JEPIと同種の投資信託として、JEPAX(JPMorgan Equity Premium Income Fund-A)というものがあります。

ほぼ同種の動きをするのは、下のJEPIとJEPAXの値動きを見ればわかると思います(キャプチャーはブルームバーグ)。

JEPI(ブルー)とJEPAX(オレンジ)の株価の推移

JEPI(ブルー)とJEPAX(オレンジ)の株価の推移

ブルーがJEPIでオレンジがJEPAX。リターンは微妙にJEPIの方が高いですが、その値動きは同じであることがわかると思います。

次にJEPAXとS&P500(VOO)、QYLDの3銘柄で、コロナ前〜現在のトータルリターンの推移を、Portfolio Visualizerを使って、2019年12月に1万ドル購入していた場合として見ていきます。

JEPI、QYLD、VYMのトータルリターン推移(コロナ前〜現在まで)

JEPI、QYLD、VYMのトータルリターン推移(コロナ前〜現在まで)

ボラティリティの低さを謳うJEPAXですが、トータルリターンの月間推移だと3者で目立った差はありませんでした。

1位 QYLD: 8316ドル、

2位 JEPAX:8243ドル、

3位 VOO:8042ドル

 

最終的(2021年11月時点)なトータルリターンは、

1位 VOO:14678ドル、

2位 JEPAX:12297ドル

3位 QYLD:11840ドル

となり、まずまずのリターンとなりました。

QYLDもJEPAXも高配当であるため、コロナ後に株価は大きく下がりましたがリターンではコロナ直後しばらくはVOOに大きく見劣りせずに回復しています。コロナ後トータルリターンがプラスに転じるのは、

1位 VOO:20年7月

2位 QYLD:20年8月

3位 JEPAX:20年11月

となりましたが、毎月高い配当が積み上がるので、こうしたコロナショックの時でも安心して保有し続けられるのではないかと思います。

JEPAXもQYLDも株価は真っ逆さまなので、株価ではなくトータルリターンで確認するのが良いです。

そして、現在の金利上昇を背景とした株安局面です。この局面ではQYLDは、PERの高い割高なナスダック100に集中投資をするため、いかにボラティリティを抑えるQLYDといえどもその影響を大きく受けています。一方で、JEPIの場合は、同様に金利上昇を背景とした株安により、アップサイドは望めず厳しい局面ではあるものの、S&P500の中でも安定感が高い銘柄にシフトして投資を継続することで、「やられ」を最小限にしていることがわかります。

S&P500の中には保守的で収益性の高い銘柄、景気減速時にも安定的に利益を出せるセクターの大型株が入っているので、やりくりしやすいというわけです。

JEPIの買い方 JEPIを買うべきか

JEPIは当然、金融資産をひたすら大きく増やしたい人には向きません。高配当投資をして、年間配当額を積み増したい人は、最初に一気に購入して、あとは定期的に購入していく、配当の再投資を通じて自己増殖をしていくという形が良いと思います。

QYLDと比べると、経費率が低い点、金利上昇局面での懐の深さ(QYLDは銘柄特性上、動きようがない部分がある)という点で買いやすい銘柄ではないかと思います。今後リセッションの足音が大きくなる中、JEPIは日本でいっそう注目されることは間違いないでしょう。

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