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住宅ローン金利上昇局面は繰上げ返済と投資、どちらを選ぶべきか?

将来の金利予想が上向いていることから、2022年2月、3月と住宅ローンの固定金利が上がりました。今回は、住宅ローン金利上昇局面では、繰上げ返済に回すのが良いのか、それとも投資に回して資産拡大を優先するのが良いのかを検証してみたいと思います。

目先の日本の金利は低い

FRB(連邦準備制度)の金融政策は、インフレ退治を優先して、毎FOMCごとの利上げにおいて5月には政策金利を0.5%引き上げる公算が強くなっています。さらに、6月からは0.75%とみる金融機関も出てきました。

米国では住宅ローン金利が2011年ぶりに5%に上がりました。ウォールストリートジャーナルによると、1年前、月の住宅ローン支払いの中央値は1200ドルでしたが、この金利上昇後だと1700ドルまで跳ね上がるとのことです。

日本でも2022年2月、3月とメガバンクが相次いで住宅ローン金利を引き上げました。長期の金利が上昇したためです。例えば3月は「フラット35の金利が1.44%(+0.08%)と約3年ぶりの高水準になっており、低金利が続く変動金利との金利差が拡大しています」(株式会社MFS)。

ただ、この長期金利の上昇をまずいと見た日銀は、積極的に指値オペを行って、低金利維持に努めています。指値オペにより、長期金利を0.25%に固定し、その枠の中で国債を無制限に買い入れて低金利を維持する一方、それが急激な円安を誘発しました。

その結果、政府内からも「悪い円安」を叫ぶ声が高まる結果となっており、このまま円安が進めば、円安改善を日銀が強制されることもありえる局面になってきました。つまりそれは長期金利が上がり、それに伴って住宅ローン金利も上がる可能性があることを意味します。

低金利局面では「繰上げ返済せずに投資すべき」理由

そんなわけで、今回のテーマは、住宅ローン金利上昇局面では、繰上げ返済に回すのが良いのか、それとも投資に回すのが良いのか?です。

低金利局面では、基本的にはキャッシュを減らして繰上げ返済して自分のバランスシートを圧縮するよりも、投資に振り向けた方がお得です。

なぜなら住宅ローン金利が0.5%だとすると、それ以上のリターンを得ることは株式投資をしていればそう難しくないからです。とくにコロナ後は米国株は金融緩和により爆上りでしたから、いっそうその傾向は強かったです。

金融緩和とは、マーケットにお金を大量に回してジャブジャブにして、景気を刺激することです。そして市中のマネーが増えれば増えるほど、資産価格が上昇していく(=インフレが誘発される)ことになるので、貨幣の価値は漸減していくことになります。その意味で、住宅ローンを抱えて資産を保有するということは、その資産がお金を直接生まない(賃貸に回してキャッシュインフローがない)にしても、十分なインフレヘッジになっているといえます。

そして、そうした低金利時代は、せっかく安く借りられているのだから、無理に手持ち現金を使って住宅ローンの借入額を減らすよりも、投資に回してお金に働いてもらった方がずっと効果的です。

とはいえ、借入金の許容度は人によって違う

ただし、人には許容度というものがあるので、あまりに莫大な借入を持っていると精神衛生上良くない人もいるようです。例えば、「ローンに押し潰される夢をみる」など。そんな人は、余剰資金がある場合は投資をメーンにしつつも適宜計画的に住宅ローンを繰り上げ返済していくのも良いでしょう。

住宅ローン残高の数字が1つ小さくなったりするのは明らかなモチベーションとなりますし、安心材料にもなります。自分の許容度の範囲内になるまでは積極的に繰り上げ返済しておくというのも手です。もちろん住宅ローン減税もあるので、その辺を考えながらバランスを取るべきです。

低金利を背景に「せっかく安く借りられるのに、大事なキャッシュを繰上げ返済に使うなんてマネーリテラシーが低い」という人もいるでしょうが、お金に対する価値観や借入金に対する許容度はその人によってまちまち。自分にとって心地の良い状態を選ぶべきです。

金利上昇局面ではどうか?

では、今回のテーマである金利上昇局面では、余剰資金は借入金返済に回した方が良いのでしょうか、それとも投資に回した方が良いのでしょうか?

仮に0.5%だった金利が1.5%に跳ね上がった場合を見ていきます。

借入金3000万円、期間は35年、ボーナス払いなしの場合

0.5%だと月々7万7875円で、35年間トータルの支払額は3271万円(もはや大バーゲン)。

1.5%に上がると月々9万1855円で、35年間トータルの支払い額は3858万円。月々の支払額は1万4000円ほど増えて、トータルの支払額は600万円増える。

次に、この1.5%の時に、3000万円の借入金を1000万円繰り上げ返済するとします。

1.5%の時に、3000万円の借入金を1000万円繰り上げ返済する

1)期間短縮型で選ぶと、期間は21年に減り、月々の支払額は9万2569円、23年間のトータル支払額は2333万円となります。

2)月々の支払額を減らす形にすると、月々6万1236円まで抑えることができ、35年間トータルの支払額は2572万円となります。

1)の場合、支払額の差は525万円となるので、繰上げ返済に使わなかった場合の1000万円が投資元本としてどれだけキャッシュを生んでくれるかを比べてみます。

利回り2%だとすると、21年間で+515万円となるので、2%だとほぼトントン。ですが、このうち元本以外の値上がり益に20%の金融所得税がかかってきますから、2%だと大きく繰上げ返済した方が良いことになります。

3%だと21年間で+860万円になるので金融所得税支払い後で+688万円。繰上げ返済よりお得とはいえ、株式市場のリスクとリワードを考慮に入れると、リスクフリーの繰上げ返済の方が魅力的かもしれません。

4%で運用できると+1022万円となり、金融所得税支払い後も+818万円となるのでこれぐらいは欲しいところかなと思います。

したがって、4~5%以上のリターンをとる自信があるなら、繰上げ返済をせずに投資をした方がいいということになります。

金利上昇局面というのは、現在価値が低くなりやすいので、グロース株などの急成長銘柄のバリュエーションは低く抑えられる一方、景気が手堅く推移している状態を意味するので、比較的企業業績は安定しやすい局面です。だからといって株価が高くなるかというとそうでもなく、リスクフリーの銀行預金や国債に投資してもそれなりのリターンが得られるのであればそっちの方が安心と考える人が増えるので、株式の需給バランスが悪くなり、あまり株価が上がらない可能性があります。

ローン完済後に投資をした方が良いのか?

また、早期に繰上げ返済をして住宅ローンを完済すれば、そのローン支払い金を今度は迷いなく投資に回すことができます。

そこで、

繰上げ返済をした場合、22年目以降から35年目までの14年間、毎月9万2569円(年間111万円)を投資に回したとします。

一方、繰上げ返済をしなかった場合、1年目に1000万円を投資して35年後にいくらになったかを比較対象としてみたいと思います。

その際、投資元本は、前者が1555万円(年間111万円×14年)、後者は1000万円となります。

その結果、

①お互いの利回りが2%の場合は

繰上げ返済した場合は金融所得税支払い後+759万円(税前+809万円)、

繰上げ返済をしなかった場合は金融所得税支払い後+799万円(税前+999万円)でほぼ差はありませんでした。

次に

②お互いの利回りが4%の場合は

繰上げ返済をした場合は金融所得税支払い後+1001万円(税前+1113万円)、

繰上げ返済をしなかった場合は同支払い後+2356万円(税前+2946万円)となり、圧倒的に繰上げ返済をしなかった場合が有利となりました。

結論と注意

 

以上の結果、

4%以上の年間利回りを平均して期待するのであれば、金利上昇局面でも繰上げ返済はせずに、我慢して投資に回し続ける方が良いということになります。

20年を超えたあたりから、雪だるま式にお金が増えていくので、これはまさに複利の力と言えるでしょう。

コツコツ確実に返済した方が、結局は儲かるというものではなく、最初にどかっと大きく投資をしてできるだけ長く運用する方が、理論上は複利の恩恵を最大化できて、資産を極大化できるというわけです。

もちろん、投資した年が最も株価が高い時ということもあるので、必ずこの理論の通りになるわけではありません。が、長い目で見れば、米国ETF(S&P500)の場合は上がり続けてきた歴史があるので、それを信じるのであれば、繰上げ返済に使わずに愚直に投資し続ける方が良いといえそうです。

とはいえ、途中で書いた通り、個々人のリスク許容度、借入金許容度の範囲内でコントロールすることの方が大事だと思います。

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