10月1日、メルク・アンド・カンパニー(Merck & Co., Inc. ティッカーシンボル:MRK)はコロナ患者の入院と死亡リスクを50%減少させる飲み薬「モルヌピラビル」を発表。株価が高騰しました。今回、決算推移、株価を含め、銘柄を分析しました。
メルク・アンド・カンパニーとは
メルク・アンド・カンパニー(Merck & Co., Inc. ティッカーシンボル:MRK)はアメリカニュージャージー州に本社を置く、巨大製薬メーカー。医療用医薬品、ワクチン、バイオ医薬品、およびアニマルヘルス製品などを研究・開発しています。元はドイツの医薬メーカー・メルクの米国事業でしたが、第一次世界大戦時に接収されたのに伴い独立したのが起こり。世界140カ国以上で事業を展開するグローバル企業で、日本など北米以外ではMSDという名称でビジネスを行っています。2020年度の売上高は480億ドルです。
製薬メーカーメルクの主力商品
主力製品は免疫チェックポイント阻害薬のキイトルーダ。2020年度で全体の売上の1/3を占める143億ドルを稼ぎ出しています。これに52億ドルの糖尿病用剤ジャヌビア、39億ドルの子宮頸がん予防ワクチンのガーダシルの3本柱で売上の半分を占めます。
また、動物用医薬品でも47億ドルの売上を持っており、大型の医療用医薬品とワクチンを中心にアニマルヘルス製品も開発する、総合製薬メーカーです。
製薬業界の動向
世界の製薬業界は約130兆円と巨大です。このうち製薬業界の販売チャネルは医療機関で処方される医療用医薬品(処方箋薬)と一般用医薬品(OTC医薬品)に分かれますが、マーケットの大多数を握るのが医療用医薬品です。
メルクなど各製薬メーカーは、膨大な期間と研究開発費をかけて新薬を開発。それが米食品医薬品局(FDA)や厚労省に承認されると、特許期間中莫大な利益を企業にもたらします。これによって多額の研究開発費を回収するとともに、次なる研究への投資資金にするわけです。
したがって、各社の競争力は、「研究開発費」の多寡に左右されます。そのためには企業規模を大きくすることが求められ、業界内での合従連衡・M&A(合併・買収)が積極的に行われるわけです。
製薬業界におけるメルクの立ち位置
製薬業界の専門ニュースサイト、AnswersNewsによれば、2020年度の世界製薬メーカーの売上ランキングは、以下のようになります。
順位 | 企業名 | 売上 | 対前期比 | 国 |
1 | ロシュ | 624.06 | -5.10% | スイス |
2 | ノバルティス | 486.59 | 2.60% | スイス |
3 | メルク | 479.94 | 2.50% | アメリカ |
スイスのロシュ、同ノバルティスについで、メルクは世界3番目。4位以下は同じくアメリカのアッヴィ、ジョンソン&ジョンソンと続きます。
また、研究開発費ランキングは以下の通り(出典:同じ)。1位がロシュの139億ドルに次いでメルクが2位。
順位 | 企業名 | 売上 | 対前期比 | 国 |
1 | ロシュ | 139.2 | 1.80% | スイス |
2 | メルク | 135.58 | 37.30% | アメリカ |
3 | ブリストルマイヤーズスクイブ | 111.43 | 81.20% | アメリカ |
メルクは業界内でかなり良い立ち位置にあるといえます。
メルクの業績推移
メルクの過去3ヵ年の売上、研究開発費、当期純利益、希薄化後EPSの推移は以下の通りです。
メルクの業績推移 単位:100万ドル | |||
決算期 | 2020 | 2019 | 2018 |
売上高 | 47,994 | 46,840 | 42,294 |
研究開発費 | 13,558 | 9,872 | 9,752 |
当期純利益 | 15082 | 13382 | 11621 |
希薄化後EPS | $5.94 | $5.19 | $4.34 |
潤沢な研究開発費を背景に、売上を稼ぎ、当期純利益を増やしています。
次に売上に占める、部門別売上及び、売上上位5薬の医薬品をみていきます。
2020 | 2019 | 2018 | |
売上高 | 47,994 | 46,840 | 42,294 |
医薬品計 | 43,021 | 31,751 | 37,689 |
キイトルーダ | 14,380 | 11,084 | 7,171 |
ジャヌビア | 5,276 | 5,524 | 5,914 |
ガーダシル | 3,938 | 3,737 | 3,151 |
ProQuad | 1,878 | 2,275 | 1,798 |
ブリディオン | 1,198 | 1,131 | 917 |
動物用医薬品計 | 4,703 | 4,393 | 4,212 |
その他収入 | 270 | 696 | 393 |
既に触れた通り、キイトルーダが大きく前年より売上を伸ばしています。
キイトルーダは、米国において2028年まで特許があるので、こちらはまだまだ売上が伸びそうです。2021年度どこまで伸びるかに注目です。
ガーダシルは売上の伸びは低いですがこちらも堅調で、同様に米国で28年まで特許を持ちます。
一方、売上が右肩下がりのジャヌビアは、米国で22年で特許が切れます。そうなると売上の激減は免れない状況です。
対コロナ経口剤「モルヌピラビル」とアクセレロン・ファーマの買収
しかし、その局面でメルクは、軽中程度のコロナ患者の入院と死亡のリスクを50%減少させる飲み薬「モルヌピラビル」を発表。FDAに緊急使用許可を申請する見通しであることが各種報道で10月1日に報じられました。
また、モルヌピラビルだけでなく、メルクはその前日にも115億ドルでアクセレロン・ファーマを買収することを発表。これによってメルクは、アクセレロンが持つ肺動脈性肺高血圧症治療薬「ソタテルセプト」を獲得することができます。将来的に大きな収益貢献が期待される大型新薬です。
メルクの株価推移
コロナ飲み薬発表の報道を受けて、10月1日、メルクの株価は前日の終値75ドルから81.4ドルへと+8.37%の暴騰となりました。一時最高値は84.34ドルをつけましたが、過去には88ドルを超えた時期(19年12月20日)もあります。その後コロナショックで65ドルを切るまでに暴落、何度も上がっては落ちてを繰り返す、ボラティリティの高いヨコヨコ銘柄という感じでしたが、ここに来て大きなホームランを打った格好です。
メルクの配当推移
メルクの過去3年間の配当額は以下の通りです。
毎年配当金額が増えており、直近の配当利回りは3.2%となっています(21年10月1日時点)。
メルク・アンド・カンパニーの今後
メルクの今後は大きく期待できます。
特許切れ間近のジャヌビアに代わる3の矢、4の矢が非常に頼もしいためです。
今後のメルクのポイントは以下の通り。
今後のメルクのポイント
- 主力のキイトルーダがどこまで売上を伸ばすか
- コロナ経口薬「モルヌピラビル」は承認されるか、どれだけの売上になるか
- アクセレロンが持つ「ソタテルセプト」の売上規模がどれくらいになるか
3つの大きなビジネスチャンスを持っており、メルクの業績のさらなる拡大に寄与しそうです。
モルヌピラビルとソタテルセプトの売上規模がどのくらいになりそうか、その予想などが出次第、更新したいと思います。