高配当銘柄は株価の変動を気にすることなく、キャッシュインフローを積み上げて、収益を増やしていくことができます。そのため、精神衛生上、極めてよろしく、狼狽売りなどをしなくてすみます。その一方で配当にも税金がかかるので、配当再投資したとしても「複利効果」が弱まるのがネックです。
そこで今回は、NISAで超高配当ETF、グローバルX NASDAQ100・カバード・コールETF(ティッカーシンボル:QYLD)を運用すると、どんな効果が得られるのかについて見ていきたいと思います。
超高配当ETF QYLDとは
QYLDは、時価総額の大きなNASDAQ100を対象に、現資産を保有しつつ、「カバード・コール」を使って、行使価格以上の値上がり益を放棄する代わりに、買う権利を投資家に売った対価として得られる「オプションプレミアム」を積み上げていくのが基本戦略です。
逆に、値下がりについては何のカバーもしていないので、普通のNASDAQ100ETFと同様、なすすべなく下落していく性質を持っています。
詳細は、オプション取引の基本〜応用編、カバード・コールまでを解説した上で、QYLDの本質と投資妙味について解説している以下をぜひご覧ください。
-
超高配当に騙されるな!QYLDの仕組み、リスク、VYMとの比較、買い方を徹底解説!
今回は、超高配当(正確には分配)ETFとして知られるグローバルX NASDAQ100・カバード・コールETF(ティッカーシンボル:QYLD)を取り上げます。分配利回り11.5%(2022年8月14日時 ...
続きを見る
QYLDのメリットとは
QYLDの分配利回りは2021年9月16日時点で9.9%。株価がこの1~2ヶ月で上がったことで、これまでの11%台から下落しましたが、それでも十分すぎる水準です。そして、設定来の年率リターンは終値ベースで9.41%となっています。つまり、分配利回りで稼ぐ一方、株価は漸減傾向を基本としているわけです。
QYLDの株価はトントンか若干下がっていく傾向があるかもしれないが、トータルで年率9%を上回るリターンが得られるETFです(以前は11%程度でしたが、株価値上がりを受け利回りが落ちました)。
さらには、毎月分配金が得られます。
つまりQYLDは配当金(正しくは分配金)を最大化させる上で最適なETFであり、株価下落局面でも安定的にキャッシュフローが得られる、握力の弱い人でも長期保有できそうな銘柄なのです。
「将来、株価は大きく下がるかもしれない」
こんな不安を感じている人にとってQYLDは、資産を保有したまま、利益を少しづつ積み上げ、いつの間にかトータル利益を確定できてしまう(現在価値に割引くことは考慮せず)銘柄なのです。
QYLDのデメリットは税金に伴う複利効果の弱さ
このQYLDのデメリットは、「配当に税金がかかり、複利効果を十分に享受できない」点にあります。配当に対して20.41%の税金がかかるから、再投資した際の効率が良くないのです。
再投資する気がない人にとっては良い銘柄ですが、一方で再投資により資産拡大を狙う人が投資に勤しむ人はほとんどでしょう。
そこで、この税金を非課税にできれば、配当再投資による資産増加効果を高めることができるわけです。ただし、再配当分で購入するQYLDはNISA枠では買えないので一般枠となります(後述するロールオーバー時の資産目減り分を除く)。
QYLD×NISA で複利効果を得る
そこで、検証して見たいのがQYLDをNISA枠を使って購入する方法です。
新NISAまで2年強なので、2021年から始めれば3年間は毎年120万円分購入でき、その後2年間は毎年102万円ずつの購入となります。
積立NISAはその対象銘柄が大幅に限られるのでQYLDはその範囲外です。
NISAと新NISAの制度の概要と違い、注意点については以下をご参照ください
-
2階建の制度変更で複雑、実質改悪!新NISAの注意点まとめ【2024年スタート】
2024年から、NISA(少額投資非課税制度)が制度変更されます。複雑化し、実質改悪と言って良い内容です。現在一般NISAを活用中の人が制度変更後も新NISAを使う場合どんなことに注意すれば良いのかを ...
続きを見る
今からNISA枠でQYLDを5年間満額投資すれば、合計564万円を投資できます。それによって毎年どれだけ分配金が得られ、どれだけ資産を増やすことができるのでしょうか。
注意点 非課税なのは国内税だけ 米国源泉税はかかる
シミュレーションの前提は以下の通り。
QYLDの分配金利回は年10%
経費0.6%も考慮して、年間リターンは8%とする
つまり株価は1.4%ポイントずつ漸減していくイメージです。
初年度(2021年)はQYLDを9月に120万円購入、1/4年しかないので初年度分配金利回りは3%、年間成長は2%となります。
以降、23年までは年間120万円ずつ購入、その後新NISAとなる2024年から2年間は102万円ずつ購入します。
また10%の米国源泉税はすべて、徴収されます。
米国源泉税は、確定申告で「外国税額控除」を申請すれば、国内所得税から一定額控除することができるのですが、NISAは例外だからです。
なので、NISAによる税効果は20.42%から10%を引いた10.42%分ということになります。
そして、配当金は全額再配当(NISAではなく当然一般/特別枠)に回すものとします(ここには税金が米10%+日本20.42%がかかりますが、米国源泉税はすべて取り戻せると仮定します)。
NISA枠を使った5年間の投資成績は?
その結果、5年間の投資成績は以下の通りとなりました。
NISA5年間
5年間の総投資額 564万円
5年目の分配金 72万円(税払い前)
5年後の資産総額 696万円
まずまずの成果が出たと言えるでしょう。ただ、いかんせん5年という短い期間では複利効果は限られます。
ロールオーバー+一般枠で5年間投資した場合の結果
次にこのNISA期間終了後ロールオーバーして、さらに5年間保有し続けることにします。その間、毎年120万円ずつQYLDを買い続けるとしましょう。なお、QYLDは毎年2%ずつ「減価」していく設定ですから、ロールオーバー時にNISA枠が空いた分は120万円の中から購入していくとします。残りは一般枠での購入です。120万円の場合は5年で12万円ほど、102万円の場合は5年で10万円ほど減価していきます(98%の冪乗5は90%)。
その場合のシミュレーション結果は以下の通りになりました。
NISA5年+ロールオーバー
10年間の総投資額 1128万円
10年目の分配金 180万円(税払い前)
10年後の資産総額 1783万円
分配金をすべてQYLDの再投資にぶち込むので、面倒ではありますが、どんどん保有株式数は増えているので、自己増殖している気になるのが良い点ですね。
一般枠で同様の金額を投資するとどうなるか?
次に、一般/特別枠で同様の金額を投資するとどんな結果になるでしょうか。
まずは5年間だと
一般で5年
5年間の総投資額 564万円
5年目の分配金 70万円(税払い前)
5年後の資産総額 684万円
NISAとの違いは12万円でした。
次に10年間だと
一般で10年
10年間の総投資額 1128万円
10年目の分配金 176万円(税払い前)
10年後の資産総額 1680万円
となりました。
NISAだと総投資額における10年後のリターンが158%であるのに対し
一般枠だと149%となり、約9ポイント、額にして100万円の違いが税金で出ました。
QYLDをNISA枠で投資するべきか否か
5年間の違いはわずかであることを考えると、あえて、「NISAでQYLD」を選ぶ必要があるのかとも思います。普通に全米を対象にした投資信託にしておいた方が楽だし、リターンも、複利効果も大きいです。そうして資産を築いた後に、毎月のキャッシュインフロー最大化の目的でQYLDを持つ方が賢明ではないでしょうか。
一方で、投資金額の上限が年間100万円程度で、QYLDだけに投資したいという人であれば、間違いなくNISA枠を使うのがおすすめです。
加えて、今後10年間の米国市場の成長がかなり鈍化する、年10%を越えるリターンはとても得られない、と考えている人にとってはQYLD×NISAは一つの解となり得るでしょう。
資産形成において、マーケットから降りずに「長い間投資し続ける」、に勝るものはありません。QYLDが長期にわたって保有し買い増しし続けるのが自分の性格に合っているのなら、それが正解だと言えるでしょう。
その意味でQYLDは、ダニエル・カーネマンのファスト&スローを持ち出せば、
理性的に判断すると他を圧するほどの美味しい投資ではないのがわかるけど
直感的には極めて美味しい投資に映る、その魅力に抗い難いということではないでしょうか。