米アマゾン(Amazon.com、ティッカーシンボル:AMZN)は現地時間7月29日、2021年度第2四半期(4-6月)決算を発表しました。利益ベースではポジティブサプライズだったものの、発表後、株価はアフターマーケットで約7%の大暴落。アマゾンに一体何があったのか?アマゾンの第2四半期決算及び今後を分析しました。
売上42兆円、時価総額200兆円のアマゾン
世界最大のEC企業にして、クラウドコンピューティングの旗手でもあるアマゾン。世界最大の品揃えを誇るECプラットフォームを軸に、ビデオオンデマンド、音楽ストリーミングサービス、短時間宅配、買収したホールフーズマーケットなどリアル店舗小売におけるさまざまなサービスを駆使して、会員を囲い込み、顧客データを吸い上げ、さらに最適なサービスを提供することで、顧客の最大化と顧客のLTV(顧客生涯価値)最大化を進め、いまや世界中を飲み込もうという規模にまで成長しています。
売上高は2020年度(1〜12月)、3860億ドル(対前期比37%増)、日本円にして、42兆円という規模。純利益は同84.1%増の213.3億ドルで、時価総額は1兆8155億ドル(7/29終値ベース)、日本円だと約200兆円というとてつもない額に膨れ上がっています。東証1部約2200社の時価総額が700兆円強なので、いかにアマゾンの市場価値が大きいかがわかります。
アマゾンの2021年第2四半期決算概況
そのアマゾンは、ジェフ・ベゾスがCEOを退任してから初の決算として、2021年度第2四半期(4−6月)決算を7月29日に発表しました。
アマゾン21年度第2四半期決算(3ヶ月、単位:100万ドル,EPS除く) | |||
2020 | 2021 | 対前期比 | |
商品売上 | 50,244 | 58,004 | 15% |
サービス売上 | 38,668 | 55,076 | 42% |
総売上 | 88,912 | 113,080 | 27% |
営業費用 | 83,069 | 105,378 | 27% |
営業利益 | 5,843 | 7,702 | 32% |
営業外収益 | 378 | 932 | 147% |
税前利益 | 6,221 | 8,634 | 39% |
当期純利益 | 5,243 | 7,778 | 48% |
希薄化後EPS | 10.3 | 15.12 | 47% |
上が、21年第2四半期(3ヶ月間)決算のPLの状況です。
売上高は1130億ドルで対前期比27%増。営業費用も増えましたが、営業利益は同32%増と大幅増益。当期純利益は77.8億ドルで対前期比48%増となり、希薄化後EPS(1株当たり利益)は15.12ドルとなり、対前期比で47%増となりました。
ただ、大事なのはコンセンサス予想と比べてどうだったか。利益面では、予想EPSは12.22ドルだったので、23.7%のポジティブサプライズでした。
一方、利益を作る上で欠かせない、アップサイド、すなわち売上は、コンセンサス予想が1151億ドルだったのに対して1131億ドルにとどまり、1.7%のネガティブサプライズとなったのです。
売上未達の要因は、消費者の変化
売上未達の要因は、コロナワクチン接種の普及に伴い、人々が外に出て買い物するようになっている、ということに尽きます。前年は、オンラインでの購入に雪崩を打つように流れ、アマゾン側もそうした消費者の購買行動は「継続性がある」としていたのですが、一部リアル消費へと揺り戻しが起こったと言えるでしょう。
成長鈍化くっきりの北米事業
このことを裏打ちするために、北米事業の業績を見てみます。
北米事業 | 2020 | 2021 | 対前期比 |
売上 | 55,436 | 67,550 | 21.9% |
営業費用 | 53,295 | 64,403 | 20.8% |
営業利益 | 2,141 | 3,147 | 47.0% |
営業利益率 | 3.9% | 4.7% | 0.8% |
北米の売上成長率は21.9%増にとどまっています。上期累計(1-6月)だと同30%増(前期1015.6億ドル、今期1319.2億ドル)だったので、明らかにその成長ペースは鈍化しました。一方で、広告サービスが大きな利益を生んだこともあり、営業利益は同47%増となっています。
このまま、北米消費者の購買行動がオンラインからオフラインに移行するとすれば、アマゾンとしても何らかの見直しが迫られるでしょう。
投資フェーズ続く海外事業
海外事業 | 2020 | 2021 | 対前期比 |
売上 | 22,668 | 30,721 | 35.5% |
営業費用 | 22,323 | 30,359 | 36.0% |
営業利益 | 345 | 362 | 4.9% |
営業利益率 | 1.5% | 1.2% | -0.3% |
一方、北米以外の海外事業は、まだまだコロナウイルス感染拡大に晒され、今なおロックダウンが続いている地域もあります。それもあって3ヶ月間の売上成長率は同35.5%増。ただし、上期累計だと同47%増(417.8億ドル→613.7億ドル)だったので、こちらもそのペースは鈍っています。また、利益面ではまだまだ投資フェーズが続くため、営業利益率は1.2%程度です。
反動による成長鈍化も見られるAWS事業
AWS | 2020 | 2021 | 対前期比 |
売上 | 10,808 | 14,809 | 37.0% |
営業費用 | 7,451 | 10,616 | 42.5% |
営業利益 | 3,357 | 4,193 | 24.9% |
営業利益率 | 31.1% | 28.3% | -2.7% |
最後にアマゾンの利益の大部分を稼ぎだすAmazon Web Service(AWS)事業です。こちらは売上は37%増となった一方で、営業費用が多くかかり、営業利益は同24.9%増にとどまりました。
コロナ禍に伴い、多くの企業がクラウンドヤオンラインサービスのシステムを整備したことで、それらを提供するAWSのビジネスが活発化しました。逆にいうと、このシステム整備は一巡したとも言えるので、今後売上の成長が鈍化しそうです。
売上、利益構成比の変化が意味する“異変”
売上構成比の変化 | 営業利益構成比の変化 | |||
2020 | 2021 | 2020 | 2021 | |
北米 | 62.3% | 59.7% | 36.6% | 40.9% |
海外 | 25.5% | 27.2% | 5.9% | 4.7% |
AWS | 12.2% | 13.1% | 57.5% | 54.4% |
次に事業別の売上構成比と営業利益構成比の変化を見てみます(いずれも第2四半期のもの、上図参照)。売上構成比は、北米が減少、海外とAWSが伸びるという結果になりました。一方、事業別の営業利益構成比は、北米が大きく上昇、海外とAWSが縮みました。
これら2つを鑑みると、北米の成長は減速も広告ビジネスなども広まり、利益拡大フェーズへ。海外は引き続き投資フェーズ続行。AWSは引き続き利益稼ぎ頭だがその貢献度は相対的に減少し、今後は成長鈍化もありうる、という感じでしょうか。
第3四半期決算の見通しは?
次にアマゾンは第3四半期(7−9月)の見通しとして、売上高を1060億ドルから1120億ドルの範囲内としました。これはコンセンサス予想が1186億ドルだったので、-6.6%~-10.6%のネガティブサプライズです。消費者の購買行動がかなり変容することを表しています。
次に利益面を見てみると、営業利益を25億ドル〜60億ドルの範囲内としています。これは、コンセンサス予想の65億ドルを下回るもので、-61.5%~-7.7%という大幅なネガティブサプライズとなります。ただし、このうち10億ドルはCOVID-19関連の費用ということなので、それがなければ実質増益というシナリオがあるとみることもできます。
第3四半期のEPSはどうか?
次に第3四半期のEPSを推定します。
アマゾン第3四半期決算の見通しとコンセンサス予想(単位:100万ドル,EPS除く) | |||
最小 | 最大 | コンセンサス | |
営業利益 | 2,500 | 6,000 | 6,500 |
(営業外収益性) | 655 | 655 | 655 |
(税引き前利益) | 3,155 | 6,655 | 7,155 |
(当期純利益) | 2,839.5 | 5,989.5 | 6,439.5 |
EPS | $5.72 | $12.01 | $12.97 |
営業外収益は全くわからないので仮に前2Qと今2Qの間としました。また、税率はさまざまな控除があるようですが結局10%前後しかインパクトがないようなので、こちらも10%で設定しました。なお、「コンセンサス」で実際に市場コンセンサスとして発表されている数字は営業利益とEPSだけでそれ以外は、上記の仮定を当てはめているだけです。その結果、EPSは最小で5.72ドル、最大で12.01ドルとなりました。
今後のアマゾンと株価の行方をどうみるか?
利益創出フェーズに入っていないアマゾンなので、あまりEPSを追いかけても仕方がない面もありますが、前期からEPSがちゃんとではじめたことを評価する向きもあるので、ある程度は考慮に入れるべきかと思います。
一方で、大きな懸念は売上高成長のはっきりした鈍化です。驚異的な売上成長があるからこそ、62倍という途方もないPER(株価収益率)も容認されているわけです。この前提が覆るとすると、マーケットはそのPERを大きく見直さざるを得なくなるでしょう。
それを見極めるには、アマゾンの成長鈍化は、コロナによる反動の揺り戻しによるもので、それが一過性か、それとも恒久的なのかを整理する必要があります。
私は、雪崩を打つようにオンラインに移行した消費者の一部がオフライン中心に戻るのは当然あると思います。が、その数は多くはないでしょう。一方でオンライン中心の生活だった人が、鬱屈とした気持ちを晴らすべく、リアルの購買行動を楽しむ気持ちもよくわかります。ただ、これは一過性で、通常のライフスタイルに戻れば、コロナ以前よりもオンラインで購買する比率は高まることになるでしょう。
そのように考えると、アマゾンの成長鈍化は一時的なもの(コロナ禍の成長が異常だった)で、一周回ると従来の高成長に戻ると考えます。今後さらに株価は調整をすると思いますが、一時的な急落は、長期で見れば絶好の買い場になるのではないでしょうか。