というわけで、今回はこの疑問についてお答えします。REITの良いところは、高い分配金利回りを得られる点。配当金をKPI(重要業績指標)にする場合は一定割合を持っていると重宝します。一方で、コロナ禍で、人が外に出なくなり、海外含め人のモビリティが著しく落ちた結果、REITや不動産を取り巻く環境は激変しています。そんななか、REITを買うべきか、買わない方がいいのか、買うなら何を買うべきか、について解説したいと思います。
REIT(不動産投資信託)とは
REIT(リート)とは、「Real Estate Investment Trust」の略称で、日本語では「不動産投資信託」と言います。アメリカで始まった投資信託の一つで、投資家から集めたお金を使ってオフィスや商業施設などの不動産を購入し、その不動産の賃貸収入(や売買差益)を投資家に分配する、金融商品です。
日本初の上場REITは「日本ビルファンド投資法人」と「ジャパンリアルエステイト投資法人」で、2001年9月がIPO日。奇しくも9.11の前の日でした。
なおREITは当初、「インサイダー取引」規制の適用範囲外でした。ところが、2014年に法律が変わり、REITもインサイダー取引の対象になりました。
そのため、私はほんの数年前に会社規定が変わったことにより「インサイダー取引」適用範囲内の銘柄を「売買」できなくなりました。私はそれまでにREITを含めたいくつかの銘柄を保有しているのですが、追加購入ができなくなった上、それら銘柄は基本的に塩漬けとなります。
REITはなぜ生まれたか 所有と管理の分離
ではREITはなぜ生まれたのでしょうか。それは、不動産の世界で「所有と管理の分離」がオーソドックスなものとなったからです。
金を借りて物件を建て、所有し運用することは不動産業です。一方、その物件の魅力を最大化して売上・利益を高めることは、商業施設であればデベロッパーであり小売業、ホテルであればホテル業です。
つまり、所有と管理で必要とされるノウハウは別なのです。管理だけしたいのに所有が付きまとえば経営効率は高まりませんし、所有するのにお金もかかり、管理物件を増やすこともままなりません。
REITがまだ一般的に知られていない2002〜2004年頃。小売業のイオングループが、日本全国に次々と大型ショッピングセンターを作っていました。「あれだけの多額の投資をして、いまに財務体質が悪化するに違いない」そう言われてきましたが、そもそもイオンのバランスシートそのものが大きくなることはなく、金融・不動産業以外の人は「どんなカラクリを使っているんだ!?」と思っていたらしいです。
彼らは、所有と管理の分離、つまり、一度開発したショッピングセンターをREITや私募ファンドに売却する「不動産の流動化」を行い、オフバランス化していたわけです。
つまり、管理に集中したい側からすれば、次の開発に必要な資金を、すでに開発した物件を流動化すれば得られるので、次々と開発できたわけです。
REITはなぜ分配金利回りが高いのか?
「REITは分配金利回りが高い」という話を聞いたことはありませんか?
分配金利回りは以下の計算式で出すことができます。
分配金利回り(%)=年間の予想分配金÷投資金額×100
法人税を免除される代わりに利益のほとんどを投資家に分配する
一般的に、株式の配当金利回りよりもREITの方が高いです(もちろん株価に左右されますが)
これは、REITは利益の90%以上を投資家に分配することで法人税が免除されているからです。
例えばオリックス不動産投資法人は21年2月期(9-2月)、当期純利益96億5600万円に対し、分配総額は97億8600万円。配当性向は101.3%です。直近5期をみても91.9%〜105%の間で推移しています。
つまり、不動産運用であげた利益のほとんどを投資家に分配し、内部留保しないわけです。では、新たに物件を購入する場合はどうするかと言えば、それは金融機関からの借入や公募増資です。長期借入金をたくさんの金融機関から小刻みに借りているのが特徴で、それだけでなく例えば10年固定金利が年利0.2%台とべらぼうに低い場合もあります(オリックス不動産投資法人が19年に農林中金から25億円の借入、固定金利0.218%の7年)。
低い金利で銀行から借り入れできる理由
なぜこれほど低い金利で借りれるかというと、一般企業の成功するかわからない新規事業と比べて、実物資産である不動産を運用する手堅いビジネスであるからです。
また成長フェーズでない限り、特段借入を増やしてバランスシートを拡張しながら利益を増やしていくという傾向は見られず、基本は一定規模のバランスシートの中で、借入金の借り換えをしながら、淡々と毎期利益を出していくビジネスになります。
REITには大きく6種類ある!
REITは大きく以下の6種類あります。
ココがポイント
- オフィス型
オフィス需要が高ければ賃料上昇が期待できますし、そうでなく空室率が上がれば賃借料減額リスクもあります - 商業施設型
都心の商業施設から郊外のショッピングモール、さらにはスーパーマーケット1店舗までと幅広い - 住宅型
都市部の高級賃貸マンションなど - ホテル型
文字通り、ホテルや旅館 - 物流型
EC成長率の上昇で追い風、稼働率の高い物流センターを中心に保有 - 総合型
これら5つの施設を総合的に組み合わせたREIT
REITのメリットとデメリットは
メリット | デメリット |
分配金利回りの高さ | 分配金の減少リスク |
分配金が安定 | 自然災害リスク |
インフレ局面に強い | 短期的な金利上昇に弱い |
- | 有事の際のボラティリティが高い |
REITのメリットはやはり利回りの高さと安定性
REITのメリットはなんと言っても分配金利回りの高さと手堅い不動産賃借業ゆえに分配金が安定していることです。ただ、後者はコロナ禍では揺らいでしまっています。
次に、インフレ局面に強い点です。不動産の賃料はインフレ局面でそれ以上に上がるため、収益性が高まります。
REITのデメリットは・・・
一方、デメリットは以下の通りです。
配当金の減少リスクがあります。利益の90%以上を分配すると言っても、そもそも利益が上がらなければ分配できませんし、内部留保もないので「蛸足」するにも限界があります。長期間空室率が高止まりしたり、物件売却時に巨額の売却損が出ると、その可能性も起こります。
次に、自然災害リスクもあります。地震、火事、竜巻等の被害が起これば保険に入っているといっても物件価値含め甚大な影響を受けます。
あとは短期的な金利上昇に弱いということが挙げられます。REITの分配金は短期的には一定ですので、安全資産である国債の利回りが一気に上がった時、REITのリターンは相対的に魅力的でなくなるので、それとバランスするためにREITの株価が下がるためです。
また、次のパラグラフで説明しますが、普段はボラティリティが低いのに、有事の際にボラティリティ高いということがあげられます。
REITはこれから大丈夫なのか?
コロナが人の流れを変えました。実際コロナショックでREITは株式以上に大きく落ち込みました。REITはこの先難しいのではないか、漠然とそう考える人もいると思います。
上図はREITが始まった2003年からの東証REIT指数の月足チャート(出典:QUICK)です。リーマンショック前の07年5月に2,612.98を付けたのが史上最高値で、そのわずか1年半後には最安値704.46円を付けています。この短期間で73%も下落したわけです。その後コロナ前までは一貫して上げ貴重できて、コロナで大きく落ちて、その後急回復という道のりを進んでいます。
株価と違うのは、コロナ前の水準にまだ戻っていない点です。ただ、だから割安かというとそうではありません。20年の10月くらいまではかなり割安だったのですが、日本でも金融相場入りによって、中身を精査することなくあらゆる株価が上がりました。ホテル系REITなどまだ先行きが全く見えないものまで一貫して上昇しています。
分配金利回り推移を見ても、直近では3.46%まで下がっており、割安ではなくなっています。いまから買う場合は、これからも安定した収益が期待できる一部の銘柄を吟味することが大切です。
各REITの短中長期の需要比較
次に、各不動産ごとの短期・中期・長期の需要を簡単にまとめました。
ポイント
短期需要 | 中期需要 | 長期需要 | |
物流 | 非常に高い | 非常に高い | 非常に高い |
オフィス | やや低い | 普通 | 普通 |
商業 | 高い | やや低い | 低い |
住宅 | 普通 | 普通 | やや低い |
ホテル | 低い | 普通 | 高い |
総合 | 普通 | 普通 | 普通 |
物流は安定も高値で買いづらい
まず物流施設は安定しています。この先も高い需要が確実にあるからです。物流センターの重要性はこれからますます高まるでしょう。一方で短期の投資先としてみるとポジティブではありません。物流施設がこれから伸びることは誰でも気づいているので、すでに昨年夏ぐらいには株価はピーク近くに達して、その後はボラティリティの激しい展開を経て、既にかなり高い水準に到達しています。
買いづらい理由はシンプルで、別にEC需要が高まったところで賃借料をすでに決めている上、元々物流施設は稼働率が高い(というか原則フル稼働中)ため、REITの実入りが短期的に増えるわけでもないからです。要は利益が増えない以上株価が上がるわけがないというわけです。REITの魅力は分配金にあるのにその分配金が増えないまま株価が上がれば分配金利回りが下がるだけ。相対的に魅力のない案件になっているわけです。そういうわけでもう少し下がれば別ですが、現在では投資妙味は見当たりません。
オフィスの空室料は上昇中も、オフィス回帰の動きも
オフィスはどうかというと現在は、在宅ワークが進んで、都心のオフィス需要は一時的に下がっています。三鬼商事によれば、東京ビジネス地区の平均空室率は14ヶ月連続で上昇。20年3月に2%だった空室率は21年4月現在5.46%まで悪化、平均賃料も下落しています。ただ、この動きはコロナが落ち着き、さらに賃料に値頃感が出てくれば、より利便性の高い大型物件を中心にある程度需要が戻るでしょう。したがって良い物件を抑えているかどうかが重要なポイントになります。
オフィス回帰の動きはコロナワクチン摂取が進む国ではすでに出ています。ブルームバーグによると、「JPモルガンに続いて、ゴールドマンサックスも6月から、アメリカとイギリスの従業員を6月からオフィスで働くよう企図している」とのことです。アマゾンなどのテックカンパニーはコロナ禍でもせっせと新規オフィスを次々確保していましたが、こうした金融企業の動きは一般企業にも波及しそうですね。
この流れは、日本でも感染者が落ち着き次第、同様の流れになると思います。
商業は郊外のショッピングセンターは引き続き好調も
商業は都心の商業施設は厳しいですが、郊外のショッピングセンターのニーズは相変わらず高いです。ただ、人口減少の影響を受けるので、中期では需要はやや低くなり、長期ではかなり低くなることが予想されます。ただその前に競争激化による淘汰が起こるので、勝ち組施設と負け組施設の明暗がはっきりすると思います。また、EC化の進行、アパレル需要の低減によって、今後ショッピングセンターは中身をガラリと変えないと生き抜いていくことが難しくなってくるでしょう。それは、高い賃料負担が可能だったアパレルがどんどん抜けていくためです。
そうした変化が既に顕在化している市場がアメリカです。すでにアメリカではショッピングセンターがどんどん閉鎖していて、専業ショッピングモールREITもどんどんなくなってきていることを知っておくと良いでしょう。
極めて需要が手堅い住宅型、懸念は人口減少
住宅型は需要が極めて手堅い一方で、人口減少を背景に将来性は高くありません。今後はどのREITでも勝ち組となるわけではなく、良い物件を抑えているREITが良い、という当たり前の競争が繰り広げられることになります。とくに、物件が古くなればなるほど賃料が減少して行きますので、収益性の高い物件ポートフォリオのノウハウが業績差を分けることになります。
まとめ 長期でREITを買うなら?
上図を見てわかる通り、商業物流はコロナ前の水準に戻り、住宅は手堅い一方、オフィスの戻りが遅いです。
基本的には短期で買うなら、まだ値戻りの余地があるオフィス系か総合系から分配金利回りが4%以上などの割安な銘柄を探して上昇余地を探る。長期では物流型や総合型を地合いの良いときに買うということになるでしょう。
ホテル型REITに賭けてみるというのも長期では悪くありません。ただ、どこも大幅減配で、例えばジャパン・ホテル・リート投資法人は19年12月期3690円から20年12月期126円へと激減しており、REITの投資妙味である分配金の高さには目を瞑る必要があります。さらにホテル需要の将来的な戻りを期待して、逆張りでホテル系REITを買う動きが昨年夏以降活発化したので、格安とも言えない水準です。例えばコロナ収束後大きなビジネスの回復が期待されている星野リゾート・リート投資法人は既にコロナ前の株価水準60万円を大きく超えて一時65万円を付けました(21年5月21日時点で62万9000円)。さすがにコロナ禍がどこまで続くかわからない日本の状況を考えると買われ過ぎです。もはや破綻リスクのあるREITもあるのでちょっとリスキーですが、この1〜2年を乗り切れれば、明るい展望は見えてくるでしょう。
このように考えると、いまあえてREITを積極的に買う理由は見当たりませんが、銘柄と株価の展開によっては買い時が来るので、いつでも買えるように調べておくのが良いと思います。その日は案外早く来そうな気がします。