こんにちは、かぶうさです。
米シェアオフィス大手のウィーワークは3月26日、SPAC方式を使って、上場することを発表しました。19年にIPOが頓挫して以降、ソフトバンクグループ主導で再建が行われてきたウィーワーク。同社はボウ・キャピタルが組成した上場済みSPACのBowX Acquisition Corpと統合することで上場することになります。
ということで今回は、SPACについて解説します。日本でも知名度の高いウィーワークが絡むとあって、今後SPACはさらに株式市場において存在感が高まることでしょう。中身がない会社なので怖いとお感じの方もいるかと思います。しかし、SPACの本質を考えると個人投資家にとっても大いに投資メリットがあることがわかります。
SPACとは何か、その本質は?そして個人投資家はSPACをどう捉え、自分の投資戦略に生かしていくべきなのか、についてお話します。
SPACとは、未上場会社を買収する目的で設立された会社
まず、SPACとは、Special Purpose Acquisition Companyの略で、日本語では特別買収目的会社と呼ばれます。言葉の響きとしてSPCを彷彿としますが、こちらはSpecial Purpose Companyの略。日本語では特別目的会社と呼ばれます。主に不動産証券化取引の際に利用されるもので、資産流動化法にもとづき設立できる会社のことを指します。
呼び方は、SPACは「スパック」と発音され、SPCはそのまま「エスピーシー」です。
ではSPACとはなんでしょうか?
それは、未上場会社を買収する目的で設立された会社のことを指します。一般企業は事業を行うことを通じて利益成長し、株主をハッピーにすることが目的です。一方SPACは上場時点では事業を行っておらず、上場後に株主から集めた資金を元手に企業買収を行うことで株主をハッピーにしようという会社です。
つまりSPACは、上場することが前提なわけです。したがって、たとえば一般的に無名のかぶうさがSPACを作ったとしても見向きもされません。事業の実態も実績もネームバリューもないわけですから当然ですね。一方、有名な経営者や投資家、スポーツ選手がSPACを作ったとしたらどうでしょう。「この人ならいろいろな経験やコネクションがあるから、何かできそうだ」と思うのではないでしょうか?このように、信頼“感”や実績をテコに、投資家側は期待“感”で投資していると思います。実際中身がないのだから、それ以外は、これまで他のSPACが成功した過去の事例ぐらいしか参照にはなりません。
SPACの上場は難しいのか、簡単なのか?
SPACは上場が前提と言いましたが、では、事業もしていない空っぽの会社(SPACは通称、blank check company<空欄小切手会社>と呼ばれます)が上場できるのでしょうか?
もちろんできます。それも事業会社が上場までにかかる期間よりもはるかに短い期間で上場審査をパスして、上場することができます。なぜなら、既存事業がないので、投資家に対して、説明すべきことが少ないからです。
また、米国証券取引委員会(SEC)によれば、SPACはIPO(新規株式公開)の目論見書において、買収ターゲットとする業種や事業を特定する場合はあっても、その特定した業界での買収に固執する義務はない、としています。つまり、投資家がイメージしやすいように、例えば「イノベーションを起こすテック関連企業をターゲットとする」と目論見書で謳って実際に小売業を買収したとしても特に問題はないわけです。
ただし、その買収を株主が認めるか否かは別問題です。M&A(合併・買収)する場合、被買収企業と交渉するだけでなく、株主によって承認を受ける必要があるからです。したがってSPACには、株主に否決されるリスクがあるというわけです。
では、SPACのIPO価格はいくらなのかといえば、こちらもSECによれば、1ユニット(普通株とワラントのパッケージ)あたり慣例として10ドル。これはIPO時点では事業がなく、既存事業の評価に基づかないためです。
なお、SPACは上場後、通常2年以内に買収を完了させなければならないという取り決めがあります。買収が成立しなかった場合、資金は株主に返還され、SPACは解散となります。
SPACの何がいま問題視されているのか?
では、いまSPACの何が問題視されているのでしょうか。
それは大きく2つあります。
1つは被買収企業の質の問題。先述したように、従来のIPOは手間も時間もかかるもので、特に業績を上げながら、同時に内部管理体制を構築しなければなりません。さらには機関投資家の投資判断と上場時の株価に大きな影響を与える「ロードショー」の準備にも膨大な時間がかかります。そのように膨大な時間を使い、上場基準をクリアすることを通じて、その会社の銘柄は一般投資家でも比較的安心して買えるようになるわけです。
ところが、上場後SPACに買収された企業はどうでしょう。内部統制等、厳しい基準をクリアすることなく、いきなり「上場企業」になれるわけです。ベンチャー企業にとってはIPOまでの時間を短縮できるメリットがある一方で、投資家にとっては、果たして上場に値する企業なのかどうかを見極める「眼力」が必要になるわけです。つまり、投資家側はリスクが高いと言えるわけです。
とくにSPACの上場が相次いでいるアメリカでは、空前の金余りも背景にあって、SPACの抱えるリスクは高まっていると指摘する専門家もおります。要するに、たくさんの上場SPACが手当たり次第にベンチャーに手をつけるばかりに、価値のないベンチャーもSPACを通じて上場してしまっているというわけです。
SPACに個人投資家が投資するメリットとは
SPACを組成する側のメリットは、少ない自己資金で金の卵をいち早く手に入れ、投資マネーを呼び込むことによって迅速な成長を実現することができる点です。
そして、われわれ一般投資家にも大きなメリットがあります。
それは、本当の意味で「金の卵」に投資できるチャンスがあるということです。通常、日本でもビジネスモデルが先進的な若い企業に投資できる人は、いわゆるエンジェル投資家と呼ばれる人たちに限られます。彼らは自らもベンチャーの創業者であるなど、資金力とコネクションがあるごく一握りの人たちなのです。
われわれ一般人には、投資するチャンスがないのです。
ところが、このSPACという仕組みを使えば、誰でも「金の卵」に投資することが可能になります。その意味で、全員にチャンスが与えられるアメリカらしい仕組みだなとかぶうさは思います。
誰でも金の卵に投資できる、と書きました。ただし問題は、その金の卵は具体的にどんな会社なのか、について投資家は投資時点ではまったくわからないという点です。だから、誰がSPACを組成したのかがその企業に投資する判断材料となるわけです。でも、材料としては乏しいのは事実ですよね。
知名度の高いウィーワークのSPAC活用で、ますます株式市場におけるSPACの存在感は高まることが予想されます。日本ではまだSPACは認められていませんが、その流れも変わるかもしれません。