持ち家VS賃貸… 永遠に結論のでないテーマと言ってもいいでしょう。
その答えはその人の住まう場所、ライフプラン、マネープラン、人生観、年収、家族構成、ライフスタイルの変動可能性などによって変わります。
はっきり言えば、その人次第なわけです。
一方、世の個人投資家に限っていうと、持ち家に否定的な人が多いのではないでしょうか。その一因として、ロバート・キヨサキの名著『金持ち父さん 貧乏父さん』で「マイホームは負債」「投資に回せる金が減る」という意見に賛成の方が多いことがあげられるのではないでしょうか。
しかし今回シミュレーションした結果、コツコツ資産を増やしていきたい一般人にとっては、マイホームを持った方が金融資産を増やせることがわかりました。その詳細と理由について説明します。ただし、すべての人に当てはまるわけではないので、その点はご了承ください。とくに、支出の制限をせずに投資をしている人には適さない考え方ですので、そういった方は「ふーん」とでも思っていてください。
都内在住の平均的家庭が1億円めざすなら、賃貸と持ち家どちらが良い?
冒頭で、持ち家か賃貸かはその人次第と書きました。そこで、ある程度の前提条件を設定して、その中で考えていきます。
具体的には、
都内在住の35〜45歳ぐらいの平均的な家庭(年収800万円)が投資を継続的に行い、金融資産1億円を達成するためには、賃貸と戸建てどちらが良いのか?
というテーマでシミュレーションしていきます。
頻繁に転勤がある人には向かないので、あくまでもライフプランがある程度固まっている人が良いと思います。「よく経済的に余裕がある人が持ち家にすべき」という論調がありますが、私個人としては、お金をあまり使いたくない人ほど持ち家にすべきと考えています。理由は後述します。
マイホームは資産か負債か
まずはマイホームは資産か負債かということについて考えます。
家計をバランスシートに例えて、「マイホームは資産の部に計上」と考えると、なし崩し的に資産になるので、ここではその考えは置いておきましょう。
マイホームは、今後数十年に渡って住まう権利を先払いするものと考えます。
現金で買った場合は、最初だけキャッシュアウトフローが発生し、その後は発生しませんが、多くは住宅ローンを借りることになります。
すると、住宅ローンを活用して、今後数十年にわたって住まう権利を購入し、毎月その住宅ローンを返済するために、キャッシュアウトフローが発生すると考えることができます。
つまりマイホームは、今後数十年住まう分を先に購入するだけ、割安に住宅を住まう権利を得られる一方で、その権利を得るために最長で35年分の金利を加えた住宅ローンの支払いをしていくことになります。
大事なことは、金融資産1億円達成が優先目標。マイホームに「終の住処」的な大袈裟な感情を抱いてはいけませんし、過度な豪華さを追求すべきではありません。あくまでも、①資産価値が数十年後でも残ること(戸建ての場合は土地の価格がメーンで上物が安いこと)、そして②賃貸時代よりも月々、年間の住宅費が減ることを前提にすべきです。
言い換えると、財布の紐が緩みがちな「ドキドキ・ワクワク」マイホームではなく、地に足をつけた、あくまでも「数十年住まう権利の先買い」としてのマイホームにすべきです。それでも、「自分のもの」という所有欲は、賃貸とは違う満足感を与えてくれるはずです。
マイホームのメリット、デメリット
次にマイホームのメリットとデメリットについて、①経済面、②精神面、③投資面の3点から考えたいと思います。
経済面のメリットとデメリット
まず経済面から見るメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
賃貸よりも月々の支払いを抑えられる | ローンが重い |
団信が生命保健の代わり | 維持費・修繕費がかかる(戸建ては修繕時期は自分で決められる) |
賃貸に回せば高い利回りが得られる | 保険代がかかる |
資産バブルに伴うインフレリスク | 税金がかかる |
メリットでは「賃貸よりも月々の支払いを抑えられる」がメーンの理由です。
一方デメリットはみなさんご存知のものだと思います。
ちなみに、維持費・修繕費がかかる、は確かにその通りです。が、同じ持ち家でもマンションと戸建てではその性格が異なります。マンションは強制的に徴収され、かつ自分一人ではその期間や修繕方法を選べないものだからです。一方、戸建ては修繕時期は自分で決められますから、外壁塗装10年目安のところ12年にしても問題ないわけです。
マイホームと賃貸では、同じ条件であれば圧倒的にマイホームが安いです。なぜなら賃貸の場合、貸主が要求する利回りが価格に転嫁されているためです。株式投資の世界の利回りと同様ですが、不動産の世界ではキャップレート(還元利回り)と言います。
ちなみに計算式は、還元利回り(%)=年間利益(=家賃収入-経費)/ 不動産価格
この利回り分だけ、賃貸は値段が高くなっているわけです。ちなみに賃貸住宅の場合、大体、キャップレート5〜10%が目安となります。
精神面のメリットとデメリット
精神面に関するメリットとデメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット |
自宅をきれいにするモチベーションが上がる | 隣がドキュンなら終わり |
リフォームの自由度 | ローン返済期間が長い |
所有欲を満たし、安心感 | 家庭・仕事の環境が変わったら終了 |
ローン払い終わったら自分のもの | ローン払い終わったら家はボロボロ |
こちらはメリットとデメリットが表裏一体の部分が大きいですね。「自分の家」という満足感や安心感が、他のデメリットを上回るかどうか、もしくは金銭面のメリットで他のリスクを飲み込めるかというところだと思います。
投資面のメリットとデメリット
最後が投資的理由です。
メリット | デメリット |
月々の投資に回せる金額は高くなる | 購入時に資産圧縮されるのでその分を投資に回した方が効率的 |
月々・年間の住宅費を抑えることが戸建て購入の目的であるので、「月々投資に回せる額が増える」は最大のメリットであり、これが目標達成に向けて持ち家を購入する目的になります。一方、初期費用と頭金をある程度入れる必要があるので、自分の現金を圧縮することになります。
つまり、月々投資に回せる額の増額によるリターン>初期投資の増額によるリターンが成立するかどうかを見ていきましょう。そしてそれが賃貸のメリットを補ってあまりあるだけのリターンかどうかで、持ち家にするか判断すると良いと思います。
賃貸VS持ち家、シミュレーション
いよいよ実際の条件を考えていきます。
賃貸と持ち家、それぞれの前提条件
まず、賃貸の場合ですが、これまで月々の家賃が14万円だったとしましょう。
東京23区で管理費込み12~14万円、2F以上、オートロック、バストイレ別、45m2以上のマンションという条件で某住宅サイトで検索すると約450件でますので、非現実的な条件ではありません。これに月1万7000円の駐車場代がかかることとします。
一方、月14万円の家賃(実際はさらに駐車代を加えた15万7000円)よりも住宅ローンが安くなると考えると、おそらく物件価格4500万円が限界かなと思います。そこでこちらも東京23区で4500万円までの新築、建物面積70㎡以上、3LDK以上、所有権、駅徒歩20分圏内で某住宅サイトで検索。約350件出ましたので、こちらも現実的な条件です。
ちなみに、新築マンションは値段が高すぎてこの条件に当てはまるものは皆無です。値段が1000万円以上違います。しかも、マンションの場合はそこから月々の管理費も考慮に入れないといけないのでなおのところないですね。ハッキリ言って戸建てに比べてマンション価格は高すぎです。中古マンションだと築15年くらいから出てくる感じです。
気づかないうちにものの値段は上がっている
あとここで気づいたこととして、私は8年ほど前に戸建て住宅を探していたのですが、その時と比べて全体的に値段が上がっています。感覚的には同じ条件の物件でも300万円ほど上がっている印象です。部材、資材の高騰、人手不足による人件費高騰、土地価格の上昇によるもので、一部資産バブルの影響を受けているとも言えるでしょう。そう考えると資産を持たないものは相対的に貧しくなっているともいえ、資産を持つことの重要性はある程度肯定されて良いのではないでしょうか。
賃貸と持ち家、それぞれにかかる年間コストと収入・支出のシミュレーション
賃貸と持ち家、それぞれにかかる年間コストを計算し、いくら投資に回せるか考えていきます。世帯年収800万円、手取り588万円、現預金のなかから投資に回せる余剰資金として1000万円持っているとします。
持ち家のシミュレーション
持ち家の場合、以下の前提となります。
- 頭金300万円、借入4200万円でローン組成
- 金利0.8%とし、返済期間35年、月額11万4660円(ボーナス払いゼロ)
- ローン手数料など初期費用を90万円、つまり初期投資に回せる現預金は610万円(仲介手数料は片手取引のところを選びゼロ円とする)
- 固定資産税は、当初13年分の住宅ローン減税総額419万円*を考慮に入れて、35年平均で年2万円と仮定
- 保険は地震・火災合わせ年間4万円
- 修繕費用は12年ごとに100万円、年間8万3333円
- 年額住宅ローン+固定資産税+保険料+修繕費の総額を月額に直すと13万1604円=月額住居費
*年間減税額=年末住宅ローン残高*1%、最大40万円、13年目のローン残高は2890万円。当初13年間での固定資産税-住宅ローン減税の総額は-230万円(つまり230万円のプラス)
さてこの表を作っていて知ったのですが、2015年以降、35年の火災保険は入れなくなっていました!天災が増えて将来予測が困難になったためらしいです。それまでに加入していた人はラッキーでしたね。
次に、月額の手取り収入から以下の支出項目を立て、毎月投資に回せるお金を決めます。
手取り収入 | 5,880,000 |
月換算 | 490,000 |
支出(住宅以外) | 150,000 |
住居費 | 131,604 |
手残り | 208,396 |
貯金 | 50,000 |
投資 | 158,396 |
この結果、持ち家の場合は月額15万8396円=年間190万747円となりました。初期投資に回せる金額は1000万円-390万円=610万円となります。
賃貸のシミュレーション
次に賃貸のシミュレーションに移ります。
- A家賃:月額14万円(管理費込み)
- B駐車場代:1万7000円
- C保険代:2万円(2年)
- D更新料:14万円(2年おき)
- E 月換算のA~D総額=16万333円
- F引越し代:15万円(10年に1度)
- G敷金償却分+礼金:20万円(10年)
- H その他住居関連費(月換算のF+G):2917円
- I 合計月額住居費(E+H)=17万3250円
次に、月額の手取り収入から以下の支出項目を立て、毎月投資に回せるお金を決めます。
収入 | 5,880,000 |
月換算 | 490,000 |
支出(住宅以外) | 150,000 |
住居費 | 173,250 |
手残り | 166,750 |
貯金 | 50,000 |
投資 | 116,750 |
この結果、賃貸の場合は月額11万6750円=年間140万1000円となりました。初期投資に回せる金額は1000万円となります。
持ち家と賃貸、金融資産の推移はどうなる?
ようやく諸条件が整ったのでシミュレーションしたいと思います。
年間5%の運用益(配当込み、自動再投資)で
持ち家(初期投資610万円+年間191万5509円の投資)と賃貸(初期投資1000万円+年間141万1000円の投資)を比べてみます。
年齢 | 持ち家 期初総額 |
持ち家 複利計 |
賃貸 期初総額 |
賃貸 複利計 |
|
35 | 6,100,000 | 6,100,000 | 10,000,000 | 10,000,000 | |
40 | 17,998,985 | 18,898,934 | 19,896,472 | 20,891,295 | |
45 | 33,556,168 | 35,233,977 | 33,134,910 | 34,791,655 | |
50 | 53,411,516 | 56,082,091 | 50,030,884 | 52,532,428 | |
55 | 78,752,529 | 82,690,155 | 71,594,904 | 75,174,649 | |
60 | 111,094,797 | 116,649,537 | 99,116,665 | 104,072,498 |
それによると、もちろん最初は賃貸の方が金融資産は多いですが、9年目で追いつかれ、20年経つと約700万円の差がつく結果となりました。
35歳でスタートすると55歳時点での金融資産は
持ち家:8269万155円、に対して、賃貸:7517万4649円です。
さらに、5年後の60歳時点だと、めでたく両者とも金融資産1億円を超えます。
持ち家:1億1664万9537円に対し、賃貸:1億407万2498円です。
持ち家は生活スタイルの変化耐性が弱い一方で、より効率的に資産を増やせることがわかりました。しかも賃貸の場合はインフレに伴う賃料の増加というリスクイベントもあります。今回はこちらを除いても持ち家が優位ということになりました。
さらに持ち家の場合、金融資産を一部使って住宅ローンを繰り上げ返済すれば、老後の給与所得がなくなった後も配当中心の資産構成にすれば配当だけでこれまでの生活を維持することが可能です。
ちなみに、60歳時点での住宅ローン残額は1438万円ですので、仮に期間をそのままに700万円繰り上げ返済すると毎月の返済額は約4万5000円となります。
ここまでくると、持ち家のメリットが大きく見えてくるのではないでしょうか。
結論として、贅沢のためではなく、節約のために持ち家を活用する、というのはありだと思います。ただし、家族の理解があってこそですね。また、どちらのライフプランでも目標達成できたのは、このくらい堅実な収入・支出構造あってこそだと思います。
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