時期の明言はないものの、テーパリング(量的緩和の縮小)の時期は刻一刻と迫っています。今後、テーパリングと利上げを織り込むことで株価は一時的に何度か大きな調整局面を迎えることが予想されます。そうしたときに、ポートフォリオの安全性を高める意味で考えたいのが債券です。今回、債券とは何か、その特徴、株式との違い、債券価格決定のメカニズム、債券のメリットとデメリット、そして債券をポートフォリオに組み込むべきか、組み込むとしたらどういう買い方が良いのかを解説します。
リスクオフで、安全資産の債券へとマネーが流れる
テーパリングを控え、株式市場が大きな調整局面を迎えることが予想される中、投資家もリスクオンからリスクオフへとそのマネーの行き先をある程度変更させていくでしょう。その行き先は、安全資産と言われるゴールドなどのコモディティと債券です。
では、債券はなぜ安全資産と言われるのでしょうか。
債券と株式の違い 発行者からしたら、債券コストは株式コストより安い
債券と株式の違いをまず確認したいと思います。
債券は企業などの発行者の立場からしてみたら、返済しなければならないデット・ファイナンスということになります。デット・ファイナンスには銀行からの借り入れも含まれますが、債券の場合は銀行ではなく、ある一定条件のもとで、幅広く資金の出し手を公募し、金を借りる行為になります。そして、通常は、一定期間ごとにクーポンといって一定利回りの利子を払い、償還期日にその元本を支払うという流れになります。
一方、株式は、企業など発行者の立場からしてみたら、返済の必要のないエクイティ・ファイナンスです。返済の必要はないものの、そのコストは、圧倒的にエクイティ・ファイナンスの方が高くなります。
つまり、会社の立場からすれば、返済の必要性はないけどめちゃくちゃ金がかかるのが株式で、返済の必要性はあるものの比較的コストが低いのが債券ということになります。これはWACC(資本コストを加重平均したもの)を計算したことがある人なら誰でも認識している事実になります。
債券と株式の違い 投資家は満期日に債券の額面価格を受け取れる
次に、投資家の立場で株式と債券を考えてみます。
まず株式について。株価は、将来にわたって稼得されるキャッシュフローを現在価値に割引直したものの総額です。したがって、そのキャッシュフローが増えるのであれば株価は上がり、下がるのであれば株価は下がります。ざっくり考えるとその会社の業績と利益成長性に連動するわけで、株価は大きく下がるリスクも大きく上がるリスクもあります。また、決算のたびに配当金を得ることができます。また、会社が倒産したら、紙くず同然になります。弁済の優先順位も高くはありません。
発行者の立場からしたら、エクイティ・ファイナンスの方がコストが高いと書きましたが、それは、われわれ投資家がボラティリティリスクを受け入れる代わりに、相応のリターン(配当利回り)を要求しないと、割りに合わないと考えているからです。
次に債券について。債券価格は企業の業績とは関係ありません。一定額面の金額を発行するにあたり、リスクに応じた利率と利払い日、頻度などの条件が決められています。債券価格は、株価のように上下するものではありません。満期日が決められており、クーポン価格(=額面価格における固定の利回り)も一定です。例えば、満期が10年後で、$1,000の債券で毎年3月末に3%のクーポンが支払われる場合、召喚期日までに毎年30ドルを10回、投資家は得ることができ、最後に$1,000を返してもらうことができます。
債券価格決定のメカニズム
債券の価格は、「マーケットがこの債券に対して何%のリターンを欲しがるか」に連動します。米国債はリスクフリー、すなわちデフォルトリスクがゼロとされているので、「この何%のリターンを欲しがるか」は、そのままマーケット金利が適用されます。デフォルトリスクのある国の国債や社債は格付けに応じて、マーケット金利にリスク分が上乗せされるというわけです。
額面利回りとマーケットが求める利回りが同じ場合の債券価格
一例としてクーポン利回り(額面利回り)が3%の$1,000の債券は、マーケットが3%を求める場合、いつまで経っても価格は$1,000のままで固定されます。
債券価格 | 利回り | 満期までの年数 | クーポン | 償還価格 | 期日 |
$1,000 | 3.0% | 10 | $30 | $1,000 | 0 |
これはエクセルのPV関数を使えば簡単に計算することができます。期日のところはクーポン支払い時期を表していて、0=期末、1=期首となります。期首だと1回分クーポンの支払い回数が多いことになるので、その分債券価格は高くなります。ちなみに期首支払いの場合債券価格は$1,008となります。
額面利回り>マーケットが求める利回りの場合の債券価格
次に、クーポン利回り>マーケットが求めるリターンの場合を見ていきましょう。クーポンの利回りが魅力的な分、債券価格は額面よりも高くなります。例えばクーポン利回りが3%(=$30)で、マーケットが求めるリターンを1%とします。
債券価格 | 利回り | 満期までの年数 | クーポン | 償還価格 | 期日 |
$1,189 | 1.0% | 10 | $30 | $1,000 | 0 |
この場合、満期日まで10年、利払いは期末、債券額面価格$1,000とすると、債券価格は$1,189となります。
額面利回り<マーケットが求める利回りの場合の債券価格
次に、クーポン利回り<マーケットが求めるリターンの場合を見ていきましょう。クーポン利回りがマーケット期待を下回る分だけ、債券価格は額面よりも安くなります。例えばクーポン利回りが3%(=$30)で、マーケットが求めるリターンを5%とします。
債券価格 | 利回り | 満期までの年数 | クーポン | 償還価格 | 期日 |
$846 | 5.0% | 10 | $30 | $1,000 | 0 |
この場合、満期日まで10年、利払いは期末、債券額面価格$1,000とすると債券価格は$849となります。
償還年数に応じた債券価格の変動について
債券価格は、額面利回りとマーケットが求める利回りが異なる場合、満期までの残り年数によって債券価格が変わってきます。
この場合、債券価格は、償還期日に近づくほどに額面価格の1000ドルに近づいていきます。
例えば、マーケットが求めるリターンが5%で債券額面価格$1,000、クーポン$30、の場合を考えます。
満期までの年数 | 10 | 7 | 5 | 3 | 1 |
債券価格 | $846 | $884 | $913 | $946 | $981 |
満期日まで5年の時は$913、3年の時は$943、1年の時は$981となります。
投資家は5%で運用できる環境にあるのに、3%分のクーポンしか得られないので、差し引き2%分が債券価格から割引かれるというわけです。
ちなみに、クーポンがゼロの債券は自動的に割引かれた価格で取引されることが決まっているので、割引債と言われ、ゼロクーポン債とも言われます。
債券はリスクが低いのか?債券の強みと弱み
これだけを読むと、債券はリスクが低いように見えます。しかし、企業が倒産すれば、株式よりも弁済の優先順位は高いですが、買い入れた債券の金額は全ては戻ってきません。
そこで、債券の強みと弱みについて確認していきます。
債券の強み 安全性
債券の強みはなんといっても、安全性です。
債券の満期日になれば通常、額面金額で召喚されるからです。
また、毎期支払われるクーポンも一定です。
つまり、稼得されるキャッシュフローの総額が一定で、これを下回ることがないのが債券の特徴であり、強みなのです。
債券の弱み インフレ局面
債券の弱みは、強みであげた「キャッシュフローの総額が一定」ということの裏返しになります。キャッシュフローの総額が一定ということは、債券購入日と債券償還日で、1ドルの価値が同じだった時は、それで良いでしょう。ところが、物価が10年で2倍になったらどうでしょう。
$1,000投資して、10年後までに合計で$1,300得られたとします。ところがドルの価値は半分になったので、他で預けたり、資産運用していたら、$2,000に増やせていたかもしれません。つまり、債券の弱みは、インフレに弱いということなのです。
債券価格 | 利回り | 満期までの年数 | クーポン | 償還価格 | 期日 |
$708 | 7.2% | 10 | $30 | $1,000 | 0 |
10年でドルの価値が半分になる場合、年率約7.2%の割合でドルに対する資産の価値が上がっていくということになるので、クーポンが3%・10年・$1,000の債券の場合、わずか$708の価値しかないということになります。$1,000で買っていたら、大きく損をしていたことがわかります。
インフレ時の防衛策としての金融資産
インフレ時の資産防衛策としては 株、コモディティ>債券>預金>の順番で機能します。預金よりは債券のほうが全然良いですが、株やコモディティの値上がりに比べると債券は物足りないというわけです。
一方で、インフレ時に債券を購入して、その後にデフレやフラットの環境が続く場合は、「購入時のマーケットが求める利回り」>「今のマーケットが求める利回り」となるので、その差分だけ利回りを得ることができます。
テーパリングを控え、どう債券を組み込むべきか
今後テーパリングを控え、過度なリスクマネーを持っている人、現金比率が高すぎるけれどもいまの株高局面でこれ以上入れるのが怖いという人は、一時的にでも債券に割り振っておくのも良いと思います。とくにテーパリングを直撃する米国株式にポートフォリオが偏っている人は、先進国の債券や欧州の株式などに分散させることも一考の余地ありです。
ブルームバーグによれば、バンク・オブ・アメリカはテーパリング時の資金避難先として「ユーロ建て新興市場債」を推しているとのとこと。「2013年の『テーパータントラム』時に、ユーロ建て新興市場債はドル建て債をアウトパフォームした」というのがその理由です。
なお、いまの金利水準だと、外国債を持つ場合は、為替リスクのほうが影響が大きい場合もあるので、その人の考え方にあった買い方をすることが大事です。
現在為替は1ドル110円程度でずっと安定していますが、過去の実績とセオリーからテーパリングと金利上昇は一般的に「ドル高円安」を誘導すると考えられます。そうなると、ドル建て資産を持っている人にとって有利に働くので、米国株、米国債は持っておくべき、ということになると思います。