2020年、世界で500万人超が、富裕層の仲間入り(スイス銀行調査)--
コロナ禍はこれまでの危機とは異なり、富裕層に恩恵をもたらしました。富裕層が持つ富の全体に占める割合が大きく上昇。金持ちはより金持ちになる一方、中産階級は減り、低所得層へと脱落していきました。
CNNによると、アメリカではコロナ禍のたった3ヶ月で富裕層資産は62兆円も膨れ上がりました。日本でも同様、富裕層の数は増え、元々多額の金融資産を持つ富裕層にさらに富が集中することになっています。
その理由は、空前の金融緩和によって、貨幣価値が下落し、それに伴い資産の価格が上がる資産バブルが発生したからです。
改めて私たちはいま、「お金」「ファイナンシャル」の問題とどう向き合えばいいのか?
アメリカ前大統領ドナルド・トランプと「金持ち父さん、貧乏父さん」でおなじみのロバート・キヨサキによる共著『あなたに金持ちになってほしい』(筑摩書房刊)から、われわれがいまこそ学び、実践すべきことをまとめました。
ロバートとトランプ、2人の問題意識 ファイナンシャル教育
冒頭で示したように、アメリカでは過去数十年にわたって、金持ちがいっそう金持ちになる一方で、中産階級はどんどん減り、貧しい人の割合がどんどん増えていきました。
貧富の差が激しくなる理由の1つが、「ファイナンシャルの教育」の有無。富裕層以外の人たちは、自分たちで「お金」の問題を解決しようとせず、政府からの支給や援助を頼りにしています。
「もらって当然」「援助してもらって当たり前」という考えをやめ、自分自身が金持ちになって、問題を解決できるようにすべきだ、それこそが多くの人に欠けている「ファイナンシャルの教育」「ファイナンシャルインテリジェンス」だと2人は説きます。
2人はなぜ、皆に金持ちになってもらいたいのか?
では、なぜ2人は、金持ちになってもらいたいのか?それは、貿易赤字の増大、国の借金増大、ドルの価値の下落、金のない若年世代の増加、金持ちのための税制優遇など、一国の経済を破綻に導きかねない大問題をアメリカは抱えているからです。そしてこれは、日本にも大いに当てはまります。
まずは自分自身と家族を教育し、将来おこるかもしれない、自分たちの経済状態を自力で守れるようにすることがすごく重要になっているわけです。
暮らし向きが悪い、将来の経済展望が明るくない人が、その結果を変えるためには、思考を変えることがもっとも良い。
思考を変え、行動を変え、結果を変える。さらに思考を変えることでより良い結果へと自分を導くサイクルを回すわけです。
キャッシュフロー・クワドラントとは
その思考を変える第一歩が、ロバート・キヨサキがよく説明しているキャッシュフロー・クワドラント。
学校教育ではE:従業員とS:自営業者になる術しか教えていないため、多くの人にはEとSにしかなる道がありません。もっと多くの人を、雇用を創出する「B:起業家」を増やし、すべての人を「I:投資家」に育てるための訓練をする必要がある、と2人は考えています。それによって、米国の抱える年金問題や貧富の差を解決できると言います。つまり、教育、特にお金の教育格差が今日のアメリカの問題の本質であると喝破しているわけです。
ちなみに本書は2008年発売で、トランプが政治家になる前のこと。彼の言動や性格に眉を潜める人は多かったですが、少なくとも中産階級にとっては良い大統領でした。ニューズウィークによれば2020年の世論調査で「4年前よりも今の方が暮らし向きは良い」と回答したアメリカ人は56%。オバマ(2012年、45%)やブッシュ(2004年、47%)などの歴代大統領再選時の数字を大きく上回っているからです。
彼は中産階級の苦境を歴代大統領の誰よりも理解していて、そのことをレバレッジに自身の政策にして、高い支持率につなげたわけです(結果的に再選されませんでしたが)。
金持ちになる資質は何か、どう努力すれば良いのか
金持ちになれる人は、自分のお金を管理したり投資したりする方法を自ら学び、実践する人です。ところが多くの人は学ぶことをせず、自称専門家の言うことを聞いたり、根拠もなく依存して終わりです。
では、何をどう学べば良いかといえば、ドナルド・トランプは自著『金の作り方は億万長者に聞け!』(How To Get Rich)のなかでこう説いています。
「自分自身のファイナンシャル・アドバイザーになれ」と。
つまり、自分自身のアドバイザーになれるだけの知識を持ち、目標を持ち、その目標達成のプロセスを見える化できるようになるまで、学べというわけです。
「お金持ちになりたい」と夢を見る人はたくさんいますが、夢をかなえるために努力をする人は多くありません。
夢と目標の違い、プロセスの重要性
あえて夢と目標を違うものだとすると、「目標にはプロセスがある」ということ。金持ちになりたいという目標があるのなら、いつまでにいくらの資産を持つか目標を立て、それを達成するために、いつまでに何をするかという小さな目標を立て、その1つ1つのプロセスをクリアしていくことで、金持ちになるという目標を達成できるのです。
本書では「目標を達成するまでん、知識を身につけるそのプロセスこそがあなたを金持ちにしてくれる。金が人を金持ちにするのではなく、知識が金持ちにしてくれる。そして知識はプロセスから生まれる」と書いています。
トランプとロバート・キヨサキの場合、その学習プロセスは起業家になり、不動産投資をすることで、ウォーレン・バフェットの場合は企業投資をすることでした。
3種類の投資家、どれをめざすか?
フィナンシャルIQを磨き、将来の経済状況がどうなろうとも自分と家族を守れるようにするためには、I:投資家になることがもっとも手っ取り早いです。B:起業家は簡単ではないからです。
ただ、ロバート・キヨサキとドナルド・トランプは、世界には3種類の投資家がいると言います。
- 投資を全くしない人
- 負けないように投資をする人
- 勝つために投資をする人
投資を全くしない人が、なぜ3種の投資家のうちの1つなのかは謎ですが、あとの2つはわかります。リスク許容度の範囲内で投資をする前者と、投資をコントロールする術を身につけ、より高いリターンをめざして投資をする後者です。貯蓄家と投資家の違いとも言えます。
貯蓄家と投資家の違い
貯蓄家は、一生懸命働き、お金を貯め、借金をしないようにし、長期投資をするというものです。
私は多くの平均的な投資家はこちらを選び、一定の資産を築き、勝手に雪だるま式に増えていくまで我慢すべきだと思いますが、ロバート・キヨサキとドナルド・トランプは違います。
「あれも買いたい、これも欲しい、我慢したくない」という制約を経済的自由の中に置きたくない、本当のギラギラ「金持ち思考」です。FIREとかは眼中にない感じですね。
大いなる富を築くためのカギとして挙げるのが「レバレッジ」です。より小さい資本、より小さい自分の時間で、最大限のリターンを得る「レバレッジ」を活用することが何よりも欠かせないといいます。ちなみに最強のレバレッジは「自分の頭脳」、つまりファイナンシャル教育だといいます。つまり、フィナンシャルIQを高めれば、「他人には怖すぎて手を出せないもの」もコントロールできる上、それゆえ参入障壁が高いのだから、ライバルが少なく成功できる可能性が高いというわけです。
われわれが投資できることはたったの2つ
われわれが投資できることは2つしかありません。それが時間とお金です。金持ち父さんの教えのなかでは「多くの人は時間をたくさん投資しないからお金を失う」と言っています。
ロバート・キヨサキはこうもいいます。投資家の90%がお金は投資していても時間を投資していない世界の富の90%を稼ぐ10%の人は、お金よりもむしろ時間を投資していると。
これをもとに、「積極的な投資家」の姿勢をまとめると
- 時間を投資する
- お金を投資する
- フィナンシャル教育を受けている
ということになります。
教育を受け、お金と時間の投資を通じて、「積極的な投資家」はさらに学び、賢くなります。
- どうすれば税金を最小限にできるか
- どうすればリスクを減らしてリターンを増やせるか
- どうすれば割の良い投資先を見つけられるか
- どうすればいい投資と悪い投資を見分けられるか
- どうすれば投資する自分の金を減らし、他人の金を増やせるか
- どうすれば金を危険にさらさずに、経験を積めるか
- 損失にどう対応すべきか
- いいアドバイザーを見つけるにはどうすればいいか
本書では以上8つの問題をあげ、「これこそが正解」というものはない難しい課題とした上で、一生学び続け、問いを続けることで、より良い答えが見つかってくるだろうと言います。
ロバート・キヨサキ、ドナルド・トランプから学べること
本書から学べることは、まず投資家としての一歩を踏み出すことの重要性。
そして、投資家となったのなら、勝者に学び(真似び)、バフェットがいうところの「自分が理解できないものに投資する」ことがないように、学びに時間を投資することです。
ツイッターやなんやらで他人が「儲かる」と喧伝することを鵜呑みにせずに、興味を持ったら学んで自分で理解してから投資をすることが肝要。
とにかく学ぶことはたくさんあるし、時間が経てば「米国株、それもVTIを買っておけばオーケー」ではなくなる時代も来るかもしれません。自分を常にアップデートして、投資というゲームのルールを理解し、ゲームチェンジャーが現れたらその動向に注目して学び、フォローして大きなリターンを得るといった積極的な姿勢が必要だと思います。
別にトランプやロバート・キヨサキのような大成功を収める必要はないと思いますが、他人と同じレベルの努力しかせずに、人と同じことをしていては、勝てないと思いますし、逆境の時にマーケットから退出してしまうことにもなりかねません。
ゲームの勝者は、最後までゲームにい続ける人でもあります。そうなるために、われわれは日々のアップデートが欠かせないと思います。
**本書は2008年発行、現在は絶版となっており電子版もありません。中古でのみ購入が可能。お近くの図書館などでも借りれるかもしれません。