北米を中心に会員制倉庫型ストアを世界に展開するコストコ・ホールセールクラブ(Costco Wholesale Corporation, ティッカーシンボル:COST)の2021年8月期決算が発表されました。結果は大幅なポジティブサプライズ。コストコの強さの秘密と今後の成長、株価の見通しについて本気でまとめました。
世界3位の小売売上高を誇るコストコ(Costco)とは
コストコ(Costco)は、ウォルマート、アマゾン、CVSヘルスに次ぐ、世界4位、米国4位の小売業です。CVSヘルスはドラッグストア事業以外に薬剤給付管理事業(PBM)をしており、小売売上高だけでいけば、コストコは世界3位となります。
コストコは、1983年に米国シアトルに倉庫型ストア1号店をオープン。その後会員制倉庫型ビジネスを北米、そして世界へと広げていき、瞬く間に売上と利益を拡大していきました。
2021年8月末時点で、全世界で815店舗を展開。内訳はアメリカ564店舗、カナダ105店舗、メキシコ39店舗、日本30店舗、イギリス29店舗、韓国16店舗、台湾14店舗、オーストラリア12店舗、スペイン3店舗、アイスランド、フランス、中国が各1店舗です。
コストコの2021年8月期決算結果
21年8月期 | 20年8月期 | 増減 | |
営業収益 | $195,929 | $166,761 | 117% |
売上高 | $192,052 | $163,220 | 118% |
会費 | $3,877 | $3,541 | 109% |
営業費用 | $189,221 | $161,326 | 117% |
商品原価 | $170,684 | $144,939 | 118% |
販管費 | $18,461 | $16,332 | 113% |
その他 | $76 | $55 | 138% |
営業利益 | $6,708 | $5,435 | 123% |
その他費用 | ($28) | ($68) | 41% |
税前利益 | $6,680 | $5,367 | 124% |
当期純利益 | $5,007 | $4,002 | 125% |
コストコの2021年8月期決算は、営業収益が対前期比17%増の1959億ドル、税前利益は同24%増の66億ドル、当期純利益は同25%増の50億ドルでした。コロナ禍で外食を避け、家庭内食、家庭内でアクティビティをして過ごす、世界的な巣ごもり需要の影響を受けて、極めて好調に推移した1年でした。
直近の21年6-8月期決算も同様の傾向が見られ、営業収益は対前年同期比17%増、四半期純利益20%増でした。
大きなサプライズとなったのが1株当たり純利益(EPS)で、コンセンサス予想$3.55に対して、実績は$3.77、実質$3.90で、9.8%のポジティブサプライズでした(コストコ発表のEPSは$3.77、1株当たり$13のIT資産の償却が含まれているのでその影響を除けば$3.9となる)。
前年同期のEPSが$3.14だったので21年6-8月期の$3.77は実にEPS成長率20%となります。
コストコのビジネスの特徴
コストコの店舗ビジネスは、以下の8つの特徴が象徴するように独特です。独自のポリシーを貫くことで競合と差別化しています。
コストコ8つの特徴
- 人口の密集する都市郊外に平均店舗面積1万3600㎡、約4000坪強の大型の倉庫型店舗を展開
- 有料の会員以外は利用できない会員制倉庫型店舗
- お客はレストランなどのビジネス客と一般客の両方
- 他店よりも安い、低価格販売
- 商品はバルク売り、大容量
- 生鮮食品、総菜、調剤、補聴器、アウトドア用品、家電まで幅広く品揃えしながら、品揃えは3700SKUに絞り込む
- 世界中、どの店も原則同じ、チェーンストアオペレーションの採用
- 余計な装飾を行わない、陳列も簡素化されたローコスとオペレーション
通常、日本の平均的な売場面積500坪程度の食品しか品揃えしていないスーパーマーケットであってもその品揃えは8000SKUほどあります。コストコは、その8倍の広さで、かつヘルス&ビューティケアや宝飾品、アパレル、ガーデン用品などの非食品を大量に取り扱っていながら、半分以下の3700SKUに絞り込んでいるのです。
原価スレスレで販売 会員費で儲けるビジネスモデル
コストコを象徴するのがその「安さ」です。
通常、食品小売業の粗利益率(売上総利益率)は20%〜30%の間です。日本の上場スーパーマーケットの場合は大体23~30%程度です。そして世界最大の小売業であるウォルマートの場合も大体24%前後となっています。
では、コストコの場合は何%なのかというと、実に11%です。圧倒的に低い粗利益率の設定により、他社にはない圧倒的な低価格を実現しているわけです。ちなみに、純粋に商品販売を通してのみ得られる純営業利益率(商品原価+販管費を売上高で除した)は、わずか1.5%なのです。
コストコの営業利益率は約3.5%なのですが、利益のうち2%ポイント分は会費から得ています。
つまり、極端なことを言えば、コストコは損益トントンに近い低価格で商品を販売し、コストコを利用する権利である会費を主な利益源にしているわけです。
コモディティ化しにくい理由
以上のように、コストコは同じような商品なら圧倒的な低価格、あるいは同じ値段なら競合よりも圧倒的な質の高さを実現しています。商品を絞り込んでいる分、1品あたりの取扱量を最大化するから元々取引条件は良いのに加え、粗利益率を11%まで引き下げることで、他の追随を許さない、低価格・品質を実現しているわけです。
安いことがわかっているので、欲しいものを気にせずボンボン買い物カートに入れてしまう。安さに満足しているのでまた来店して買ってしまう。メンバーシップを更新し続けてしまう、という好循環を作っています。
ちなみに、会費の更新率は北米が91%、世界含めた全体が88%(2020年8月期実績)なので、会員がどんどん積み上がっていることがわかります。日本円にして年会費5000〜6000円を毎年更新させてしまうところに、コストコの顧客満足度の高さが現れています。
会員種 | 2021 | 2020 | 2019 | 2018 |
ゴールドスター | - | 46,800,000 | 42,900,000 | 40,700,000 |
ビジネス会員 | - | 11,300,000 | 11,000,000 | 10,900,000 |
合計 | - | 58,100,000 | 53,900,000 | 51,600,000 |
店数 | 815 | 795 | 782 | 762 |
1店舗あたり会員 | - | 73,082 | 68,926 | 67,717 |
ちなみに上図は会員と店舗数、1店舗あたり会員数の推移です。店舗数の増加だけが会員増を牽引しているのではなく、1店舗あたり会員数が増加していることに注目です(21年8月期分はまだ出ていません)。顧客満足度の高さを示していると言えるでしょう。
コストコ経済圏を拡大する戦略①エグゼクティブ会員
コストコは、ファーマシーやガソリン、メガネ販売など、取り扱いを増やすことで来店頻度を高める戦略をとっていると説明しますが、実態としてはコストコ経済圏を拡大して、LTV(顧客生涯価値)を最大化する戦略を持っていると私は思います。
その戦略の1つがエグゼクティブ会員制度です。
追加の会費を支払うとエグゼクティブ会員になることができ、買い上げ額の2%が還元(年間還元上限は1000ドル=5万ドルの買い上げ)されるだけでなく、会員限定の割引クーポン、提携企業が提供するサービスを割引で受けられたりします。
日本、メキシコ、韓国を除いた国々では自動車保険や住宅保険、コストコの自動購入プログラムなどでも使うことができ、コストコヘビーユーザーにとってはかなりお得な会員特典となっています。
会費は日本だと9900円で通常会費の約倍。アメリカだと通常会費が60ドルで、エグゼクティブ会費が120ドル(プラス60ドルでアップグレード)です。
エグゼクティブ会員は前期末時点で会員全体の39%を占めており、2260万人。他の会員より多く買い物する特徴があるようです。
コストコ経済圏を拡大する戦略②コストコトラベル
多くの人が知らないのが、コストコトラベルという旅行サイトです(北米限定サービス)。世界中のパッケージツアーを予約することができます。
ここではもちろん、会員だけが低価格で旅行予約をすることができるのですが、もちろんここでの購入価格も2%還元の対象となります。
現在は北米のコストコ利用者限定ですが、エグゼクティブメンバーも当初北米からスタートしたことを考えると、いずれ世界に広がっていくと思います。
このように、既存会員を囲い込むとともに、LTVを最大化するサービスを店舗、店舗以外に関わらず、順次拡充していくものと考えられます。
コストコの今後①出店
引き続き10〜20店舗の出店を続けていくものと考えられます。一方で、出店のしやすさを重視し、従来より小型の店を開発する計画はなく、むしろ直近では少しずつ店舗規模を大きくしている状況です。店舗規模は、車の排気量に例えることもでき、集客力と比例します。これからもいっそう、新たなサービスを付加し、お客一人ひとりのLTVを最大化するとともに、会員数を増やしていく同社の戦略にブレはありません。それによって、オーガニックグロースがまだまだ可能です。
コストコの今後②EC化率は21年8月期7.3%
気になるのはECです。前年の20年6月期のEC比率は6%でした。商品売上に換算すると、98億ドル、約1兆800億円です。
ECは21年8月期通期では42.6%増と大きく伸びたとしているので、商品売上に換算すると、約140億ドルになります。この場合、EC化率は7.3%となります。すでにかなりの規模になっていることがわかります。
しかし、21年6-8月期のECの伸び率は8.9%増、21年8月単月だとわずか2.8%増となっています。店舗事業が全体で14.2%も増加しているのと比べると物足りません。もちろん、前年ハードルが高すぎたというのもあると思うので、この点がどう推移していくのかを、今後見守る必要があると思います。場合によっては、店舗で提供できるような驚きと納得の安さ、ECならではの購買体験を提供し切れていない可能性もあるからです。
とはいえ、EC後発組にもかかわらず、ECだけで売上1.5兆円は順調すぎるの一言。今後の推移を注意深く見ていきたいと思います。
ECの巨人、アマゾンの直近決算(21年12月期上期)については以下で解説しています。
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コストコの株価、配当の現在と今後
以下がコストコの株価推移です。
基本的には、決算のたびにポジティブサプライズを繰り返して、株価が切り上がっている優良銘柄です。ビジネスモデルが極めて手堅いうえに不況にも強く、おーガニックグロースが見込めるため、米国マーケットの地合いもありますが、まだまだ株価は上がっていくと思います。
以下が直近、及び18年以降の年間配当額です。
配当時期 | 配当金 |
2021年7月 | $0.79 |
2021年7月 | $0.79 |
2021年4月 | $0.79 |
2021年1月 | $0.70 |
2021年計 | $3.07 |
2020年計 | $12.75 |
2019年計 | $2.52 |
2018年計 | $2.21 |
配当利回りはさほど高いとはいえない銘柄です。しかし、1株当たり配当金は、18年の年間$2.21から着実に増配を続けています。また、20年は12月に$10の特別配当があったのですが、数年おきに多額の特別配当をしている点も見逃せないところです。
以上、コストコは派手さはあまりないですが、安定的に、仕組みで収益を最大化し続けられる、極めて優良な銘柄であることがわかります。