前回、VIX指数について解説し、その指数のメカニズムと指数別予想変動幅、そしてVIX指数がある水準を超えるとリスクイベントが待ち受けていることを説明しました。今回は、それを逆手にとって、リスクイベントに備えるVIX連動ETFについて解説したいと思います。
前回記事は以下、とくにVIXとは何か、そのメカニズムを知りたい方は先にお読みください。
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VIX指数連動ETFとは
VIXとはボラティリティ・インデックスの略で、マーケットが予測する今後30日以内のS&P500の変動幅を指数として示したものです。
VIX指数が急上昇するということは、株価が大きく下落すると市場が予測していることになります(それゆえ、恐怖指数と言われる)。つまり、このVIXに連動したETFがあれば、VIX急上昇時(=相場下落時)に株価が上がるわけなので、相場下落時のちょっとしたリスクヘッジ にすることができるわけです。
ちなみに、そもそもVIX自体が株価下落時の保険代わりとするオプションのプレミアム価格に連動しています。
おもなVIX指数連動ETF
さて、そのようなVIX指数連動ETFにどんなものがあるかをまとめました。
ETF名 | ティッカー |
プロシェアーズ・ウルトラVIX短期先物ETF | UVXY |
iPath Series B S&P 500 VIX Short-Term Futures ETN | VXX |
ProShares VIX Short-Term Futures ETF | VIXY |
iPath Series B S&P 500 VIX Mid-Term Futures ETN | VXZ |
プロシェアーズ・VIX・ミッドターム・フューチャーズ・ETF | VIXM |
国際のETF VIX短期先物指数 | 1552 |
なかでも、UVXYが世界最大のボラティリティETFとして知られています。UVXYは21年2月、1週間足らずで6億ドルが資金流入したことで話題を集めています。これはVIXが上がる(=リスクイベントがある)ことを見越しているのではなくその逆で、VIXが下がることを見越して、大量の空売りが入ったものです。
ただし、残念ながら、上から5つは日本の主な証券会社では購入することができません。
国内の大手ネット証券で買えるのは、唯一、「国際のETF VIX短期先物指数」(証券コード:1552)だけとなっています。
この国際のETF VIX短期先物指数について詳細を説明する前に、VIX指数連動ETFの怖いところを紹介したいと思います。
VIX指数連動の怖いところ
2018年2月、「NEXT NOTES S&P500 VIX インバースETN(VIXベアETN)」は
上場来高値の40150円をつけたあと、米国株の急落を受けて、前日終値の2万9400円からなんと1株1144円まで急降下。実に一晩で株価が96%も下がったのです。
インバースとは「逆の」という意味ですから、VIX指数の逆に値動きするように設計されたもの。平時はVIX指数は下がっていく傾向にあるので、利益は拡大しますが、リスクイベント時に急落するのがこのインバース型。投資家は「市場が今後恐怖を感じることはないだろう」と考え、賭ける商品というわけです。直後、VIXベアETNは、早期償還となり、投資家は莫大な損失を出すことになりました。
VIX指数連動型商品の特徴①2つの利益のあげ方
「平時が続く」ことを前提にした商品だけに、急落を受けて継続不能なまでの打撃を受けたわけですが、実際VIX連動型はインバース型ではない場合、右肩上がりの株価推移を見込み、キャピタルゲインを積み上げていくことは考えにくいです。
戦時中や長引く大不況のようなマーケットがずっと荒れている環境ならともかく、マーケットの安定と持続的な成長を誘導する中央銀行のもと、基本的に米式市場は安定的成長を積み重ねてきているからです。
したがってVIX指数は時々跳ねる以外は低い水準に安定しています。
それではどんな用途でVIX連動ETFを買うのかといえば、冒頭で言ったように①短期の急落が予想される局面でのリスクヘッジ 、UVXYで説明した②断続的にVIX指数が下落することを見込んでの空売りの2パターンが考えられます。
空売りはより多くの投資家にとって心理的壁があるため、手軽に平時のVIX下落の恩恵にあずかれるインバース型を組成したということなんでしょう。
VIX指数連動型商品の特徴②長期には向かない
もう1つの大きな特徴は、長期保有に向かないということです。これは、「中長期的には時間的価値の減価などによる影響を受ける傾向がある」からです。
これはVIXが先物商品であることに起因しています。
先物は限月によって価格が変わるので、この買い替えのタイミングで、期先(きさき、限月がまだ先の商品)の商品の方が高いと損をするわけですが、VIX指数は期間が遠いほど予想がしづらくなるから当然、先物の時間的価値が増大する結果、先物価格が高くなります。
期先価格の方が高いことを「コンタンゴ」と言いますが、基本的にVIX連動型商品はこのコンタンゴが日常的に起こるわけです。
つまり、長期間保有するほど、減価していくわけです。
先物の仕組みについて知りたい方は以下をお読みください。
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国際のETF VIX短期先物指数とは
以上を踏まえ、ETF[国際のETF VIX短期先物指数](証券コード1522)を見ていきます。
これは、米ドルベースのS&P500 VIX短期先物指数を円に換算した指数に連動するように設計されたETFになります。
国際のETF VIX短期先物指数 | |
ティッカー | 1,522 |
年初来高値(21/2/1) | 7,270 |
年初来安値(21/8/13) | 2,321 |
10年来高値(12/1/4) | 2,100,000 |
10年来安値 | 2,321 |
売買単位 | 1 |
株価(21/8/13) | 2,322 |
信託報酬 | 0.40% |
純資産 | 270.29億円 |
年間トータルリターン | -73.10% |
年初来高値が7270円で、8月13日時点の最安値は2321円。大きなリスクイベントがない限り、時間経過とともに着実に減価しているのが見て取れます。年間トータルリターンは-73.1%です。
国際のETF VIX短期先物指数の使い方
平時は空売りで利益を出すということになりますが、空売りせずに使うとなると、来るべきリスクイベントに備え、短期保有するという買い方になります。VIX指数が上がると投資家に警戒感が高まり、VIX指数が急騰すると株が暴落する可能性が高いため、VIX連動ETFでヘッジするというわけです。
すでに言ったように、長期保有に向かないので、リスクイベントが考えられる月に一定量を購入、VIXが急騰した時に売却。大きな下落が起こらなかった時、危機が去った時も一旦精算するという買い方が良いと思います。
自身の資産の全額を保全するというよりは、リスクイベントに備えて現金に変えておき、残る資産の一部をヘッジするような買い方で十分だと思います。
上は[国際のETF VIX短期先物指数]と[野村原油連動型上場投信1699]の比較です(Trading View)。ほぼほぼ逆相関の関係にあります。コロナショック後、VIX短期先物指数は一気に急上昇したあと下落し続けています。逆に、原油価格は大幅な下落の後、上がり続けているという格好です。
VIX連動ETFのヘッジ効果検証
ここで、ポートフォリオビジュアライザーを使って、簡単にVIX連動ETFのヘッジ効果を見たいと思います。残念ながら「国際のETF VIX短期先物指数」はないので同じ短期先物指数をベンチマークするUVXY(国際のETFとの違いはドルベースであること)を採用します。
シミュレーションに使う銘柄は、VTIとUVXY
コロナショック前の2020年1月末に1万ドルを購入したとして、
- VTI:100%
- VTI:95% + UVXY:5%
- VTI:90% + UVXY:10%
の3パターンでどれだけ自分の資産を保全できていたかを比べてみます。
その結果、
ヘッジなしの1は4月時点で-21%と大きく凹んだ一方で、
5%だけヘッジを積んだ2はわずか−2%の減に留まり、
10%ヘッジを積んだ3は逆に17%のゲインとなりました。
結論 リスク資産全体の4〜5%を入れておく
リスクイベントを控えるものの、実際、どこまで株価が下がるか(VIX指数が上がるか)は誰にもわからないものです。
目的をヘッジとするのであれば最大5%程度組み入れればOK、3%だと10%ぐらいくらうので4〜5%前後入れておけば安心かなと思います。
ただ、直前だとすでにVIX指数が高騰しているので、その分積む金額も増えます。
一方で、突発的なリスクイベントは誰にも予想し得ないものです。ある程度危険の兆候を察知したらあらかじめ軽めに積んでおくのが良いと思います。もちろん、S&P500を空売りする、インバース型のETF(FASに対するFAZ)などを持つというのもリスクヘッジ の選択肢ですが、突発的に動けない人も多いと思うので、先に保険として積んでおくのはコストはかかっても無難と言えるでしょう。
何よりももっとも残念かつ危険な「狼狽売り」から避けられるとすれば、活用する価値は高いのではないでしょうか。