こんにちは、かぶうさです。今回は資金ジャブジャブのアメリカで、そのマネーの受け手として注目されているSPAC(特別買収目的会社)をテーマに、われわれ一般人(それも日本人)でも知っているような超有名人が設立するSPACにフォーカスを当てます。知名度のあるセレブが設立したからといってそのSPACを買う価値はあるのでしょうか?詳しく解説してきます。
大量のマネーがSPACに流れ込む
SPACとはSpecial Purpose Acquisition Companyの略。日本語では特別買収目的会社と言います。未上場会社を買収する目的で設立された会社のことを指し、上場することを前提としています。SPACは上場時点では事業を行っておらず、上場後に株主から集めた資金を元手に企業買収を行うので、blank check company<空欄小切手会社>とも呼ばれます。SPACについての詳細、SPACを取り巻く問題点、個人投資家が投資するメリット等については、以下で詳しくまとめています。
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ウィーワークSPAC方式で上場へ SPACとは何か?個人投資家にとってのメリットは?
こんにちは、かぶうさです。 米シェアオフィス大手のウィーワークは3月26日、SPAC方式を使って、上場することを発表しました。19年にIPOが頓挫して以降、ソフトバンクグループ主導で再建が行われてきた ...
SPACは過去15ヶ月の間に474社も上場し、なんと1560億ドルもの資金を集めているといいます。金余りを背景に、SPACに大量の資金が流れているわけです。
何を基準にSPACへの投資を決めるべきか
繰り返しになりますが、SPACは、買収することが目的ですので、上場時点では事業を行っていません。それなのにどうやって投資家からお金を集めるのでしょうか。投資家はどうやって、投資を判断するのでしょうか?普通に考えたら不思議ですよね。
IPO(新規株式公開)に応募するときや会社の株式を購入する際、投資家は多かれ少なかれ、この会社を取り巻く環境と今後の変化、競合に負けない強み、これからその企業がどんな成長ストーリーを描いているのか、直近の業績動向と来期のガイダンス、等をその人なりに分析や勉強して購入するかどうかを決めるはずです。
ではSPACの場合はどうでしょう。事業をしていない空箱をいくら分析しても無意味ですよね。
では何を基準に投資を決めるかと言えば、そのSPACの設立者そのものです。彼らのキャリアや持っている(であろう)コネクション、目利き力、交渉力等に対する期待感から投資するわけです。
SPACはIPO時の価格がほぼ一定で、一定期間内に買収が成立しなければ資金が返還されます。そうしたある種の安心感もあって、気軽に投資する人が増えているわけです。
SPACの目的は資金を集めること、そのためには設立者のネームバリューが重要
つまり、資金の出し手を集めるためには、誰が設立メンバーに入っているかが大きなカギを握っているわけです。大事なのはネームバリューです。シリコンバレーでの投資経験が豊富な人であれば、テック関連のポテンシャルの高い企業を買収できそうな気がしますし、例えば孫正義のような人が組成したSPACなら未来のゲームチェンジャーや大きな利益成長を見込めそうな会社を買収できそうな気がしますよね。
この“気がする”というのが、SPACに投資マネーを呼び込む上で重要なわけです。その意味では、有名人がSPACを組成することは、より多くの人の認知を獲得し、投資を受ける上で相当有利に働くわけです。
SPACがセレブを活用する大きなメリット
マーケティング的には、①この人が始めたSPACって何だろう、②この人の言っていることなら信頼できる、③この人を応援したい、④SPACを買ってみよう、というようなカスタマー・ジャーニーを辿ると仮定できますから、自分が好意を持っている、あるいは信頼している有名人の言うことは無作為に信じて投資行動に移ることも多いでしょう。より多くの人に知られている人、より多くのファンがいる人ほど、株主を集められる可能性が高いというわけです。
SNS全盛期のいま、「知名度*その人を高く信頼する人の割合=潜在的にSPACを購入する可能性がある見込み客」、となるわけですから、セレブに話を持ちかけてSPACを立ち上げる人が続出するわけですね。そのように考えると、信頼性の高いセレブリティとテクノロジーに知見を持つ投資実績の高い金融関係者、が組み合わさると、かなり強いコンテンツになり得ます。
日本では現状SPACは認められていませんが、仮に西野亮廣氏のような信者を多く抱える方と実績のあるエンジェル投資家が組んだりすると、容易に資金を集められそうな気がしますね。それが成功するかどうか、本人にその気のあるなしは別にして。
さて、有名人が立ち上げたSPACの話に移ります。
有名人が経営に関わっているSPACをいくつか表にしてまとめました。
SPAC名 | ティッカー | セレブ | 調達資金 | 上場日 |
Jaws Spitfire Acquisition Corporation | SPFR | セリーナ・ウイリアムズ | 300,000,000 | Nov,2021 |
Slam Corp | SLAMU | アレックス・ロドリゲス | 500,000,000 | Feb 22,2021 |
Mission Advancement Corp | MACC | コリン・キャパニック | 250,000,000 | Mar 5,2021 |
Forest Road Acquisition Corp II | FRXB-UN | シャキール・オニール | 350,000,000 | Mar 10,2021 |
コリン・キャパニックのSPACが3月上場
元NFLのスターQB(クォーターバック)、コリン・キャパニック(Colin Kaepernick)氏は、未公開株への投資家でNBAのフェニックス・サンズの部分的オーナーのジャム・ナジャフィ(Jahm Najafi)氏とともにMission Advancement Corp(ティッカー:MACC)というSPACを立ち上げました。2500万ユニットを販売して、2億5000万ドル(約275億円)の資金調達(SPACの1ユニットあたり価格は原則10ドル)をめざしていましたが、同社の3月5日のリリースによれば、当初の予定を遥かに上回る3億4500万ドルを調達することに成功しました。販売ユニット数は3450万。
このナジャフィ氏はThe Najafi Comapaniesという投資会社を率いており、フェニックス・サンズのほか、複数のフットボールチームを所有するほか、昨年末にはF1のマクラーレンも買収。スポーツチーム以外に、小売業やEC、メディアなど幅広い投資実績があります。
ちなみに3月5日から現在に至るまでまだ具体的なM&Aの話はないのですが、上場している以上、株価は値動きがあります。もちろん小幅ではあるのですが、一時3月24日には1株9.85ドルを切る水準になりましたが、その後上がり、本稿執筆時点(4月11日)では10.1ドルを付けています。
テニスのセリーナ・ウイリアムズのSPACは3Dプリントのイノベーターとの合併を発表
NBAの殿堂入りスターでゲームチェンジャーのシャキール・オニール氏もまたSPACの創設者に名を連ねています。テレビ番組で人気のNBA珍プレーコーナー「シャクティン・ア・フール」を担当するなどいまなお多くの人に愛され、影響力を持つオニール氏(ちなみにかぶうさは極度のNBAラバーです)。
オニール氏は元ウォルト・ディズニー幹部と組んでSPAC、Forest Road Acquisition Corp IIを創設。3月10日に上場し、3億5000万ドルを集めることに成功しました。
すでに企業買収を発表した例としては、女子テニスのスーパースター、セリーナ・ウイリアムズ(Serena Williams)が経営ボードに名を連ねるSPAC、Jaws Spitfire Acquisition(ジョーズ・スピットファイア・アクイジション、ティッカー:SPFR)が挙げられます。ジョーズ社は3Dプリンターのベロ3D(Velo3D)と合併することで、ベロ3Dを上場させる計画。ベロ3Dは15年に設立され、デジタル製造イノベーターを自認。大型3D金属プリンターなど、3Dプリンター技術を活用したハード・ソフトをBtoBで展開しています。航空宇宙、石油、ガス、発電などのセクターに商品・サービスを提供しており、イーロン・マスク氏率いるスペースXもその顧客です。
昨年3月にはシリーズDの資金調達ラウンドで2800万ドルを調達するなど、今後の成長が有望視されていました。
この買収後、ジョーズ社が調達した資金を使って、どのようにベロ3Dを成長させていくことができるか、非常に注目ですね。
資金調達コストの高いSPAC 投資家が利益を享受するハードルは低くない?
逆にセレブリティが経営に関わる企業をSPACが買収した例もあります。ヒップホップ界のレジェンドJay-Zが運営する大麻会社モノグラムをSPACのSubversive Capital Acquisition(サブバーシブ・キャピタル・アクイジション)が2020年に買収を発表したのです。一時株価は13ドルまで近づくところまで伸びたのですが、その後続落傾向で、現在は8ドル程度にまで落ち込んでいます。
このようにSPACは上場して資金を調達できたとしても、肝心の買収ができるかどうか、そして買収できたとしてもその企業をきちんと成長させ利益を最大化できるかどうか、という難問が待ち受けています。その意味では、株式投資というよりは、買収ファンドに資金を投じるという観点の方が正しいと思います。
その意味では、米国証券取引委員会(SEC)が、「セレブが関わっているだけの理由でSPACに投資してはいけない」、と警鐘を鳴らしているのは至極当然のことで、セレブはただの広告塔であり設立資金の出し手の一人だと認識すべきです。
その上で、SPACの経営メンバーにどんな人がいて、どんな実績を持っているのかを詳しく調べることが重要です。それなくしてSPACに資金を投ずることは単なる“投機”と言える行為なのではないでしょうか。
そもそも、SPACの資金調達コストは高く、それを投資家が背負わなければならないという面を無視することはできません。つまり、高い資金調達コスト分を上回る高いリターンをM&Aとその後の成長で実現できない限り、資金の回収が覚束ないというわけです。
このように考えると、SPACで利益を得るのは案外ハードルが高いのではないかと思います。