2021年に入っても米国株は順調に成長を続けています。しかし夏以降、利上げの時期や回数の議論が活発化する中で、大きな調整局面を迎えることも考えられます。2022年以降は米国のGDP成長率は鈍化します(鈍化というより2021年が異常だったわけですが)ので、思うように株価が上がらない展開が続くと思います。そうした環境下でも他のセクターより投資妙味がありそうなのが、医薬品、医薬品機器、メディカルサービスなどからなるヘルスケアセクターです。本稿ではヘルスケアセクターの投資妙味、今後の展開、おすすめETF、株価のゆくえなどを解説していきます。
新型コロナウイルスの状況
ワクチン接種率の高まりで先進国を中心に経済活動が活発化しています。しかし変異株の登場と拡大も進んでおり、世界規模でみると、コロナウイルスの感染拡大は止まっていません。7月上旬の時点で、61か国で依然として増加している状況です。4月下旬から5月初頭にかけての1日87万人の新規感染をピークに、40万人を切るまで減ってきましたが、ここに来てリバウンドの兆しも見えていて、予断を許さない状況にあります。
現在1日あたり最も多くの新規感染が報告されている国は感染者が多い順にブラジル、インド、コロンビア、インドネシア、イギリスですが、このワースト3〜5位のコロンビア、インドネシア、イギリスでは、過去3週間で増加傾向にあります。
一方でインドで最初に発見された「デルタ株」を含む変異株に対して、ファイザー、モデルナのワクチンが有効であることも確認され、一安心という状況にあります。今後さらなる変異種の発生可能性も否定できず、「終息」の2文字まではまだまだ時間がかかりそうな状況です。
ヘルスケアセクターとは
そうした新型コロナの長期化で、注目されているのがヘルスケアセクターです。ヘルスケアセクターはそもそも景気悪化時に強いディフェンシブなセクターです。そのため、2020年3月のコロナショックのような経済全体が停滞する局面でも手堅いだけでなく、ワクチン関連の需要が長期に渡って高止まりすることに加え、世界的なメガトレンドである健康需要があるため、大きくは崩れにくいセクターとなっています。
さらに、テクノロジーがヘルスケアセクターの革新を進めており、新たなヘルスケアスタートアップが誕生し、マーケットを活性化する役割を果たしています。
ヘルスケアセクターのリターン
S&P500種指数とヘルスケアセクターに投資した場合、どちらがリターンが大きいでしょうか。
コロナショックのあった2020年は実は互角でS&P500が18.29%、ヘルスケアセクターは18.27%というリターンでした(S&P500はVOO<バンガード・S&P500ETF>、ヘルスケアセクターはVHT<バンガード・ヘルスケアETF>を使用)。
しかし2021年の1〜6月までのリターンを比べると、ヘルスケアセクターはS&P500をアンダーパフォームしています。S&P500が15.29%であるのに対し、ヘルスケアセクターは11.08%でした。
ちなみにITセクターは2020年46%という猛烈なリターンを出しましたが、金融緩和の終わりも見えた21年上期は調整局面を何度か迎えヘルスケアセクターをわずかに上回るだけの13.08%で推移しています。
ヘルスケアセクターに投資する理由
ヘルスケアセクターに投資する理由は何でしょうか?
それは、①抜群の安定性と②長期的な高いリターンの両方が見込めるという点です。
実は2011年からのリターンで行くと、市場平均であるS&P500を上回るリターンをヘルスケアセクターは出しているのです。10年間の平均リターンはVOO14.8%に対し、VHTは16.77%で、かつ年間リターンがマイナスとなったのは2016年(-3.2%)だけで、2015年と2018年を除けばいずれの年も10%以上のリターンをあげています。
また、モルガン・スタンレーのレポートによれば、過去20年における一株当たり利益(EPS)の年平均成長率では、全てのセクターの中でヘルスケアが最も高く、過去20年におけるEPSの年間最大下落率は-5%と最も低いです。
ヘルスケアセクターの伸び代
ヘルスケアセクターは、ワクチン銘柄を中心にコロナ禍で大きなリターンを叩き出しました。一方で、コロナ禍で伸び悩んだ銘柄もたくさんあります。一例として医療機器メーカーは、コロナの影響で、病院での手術が減少するなど医療そのものが停滞を余儀なくされた結果、大きな打撃を受けました。また、製薬メーカーでもコロナワクチン開発にリソースを割く一方で、それ以外の医薬品開発を後回しにしました。このほか、世界中で外出制限が敷かれ、巣篭もり需要が高まった一方で、スポーツや外出機会も減り、事故による負傷も減っています。
こうした、セクター全体の「コロナシフト」が一息つけば、産業全体がいっそう活気づくことが期待されます。経済の回復、生活者の行動レベルが元に戻ることに伴う、伸び代がヘルスケアセクターには残されているわけです。
ヘルスケアセクターの長期的な成長性
ヘルスケアセクターは、先進国の長寿命化と高齢化、新興国の医療支出増加、健康意識の高まり、医療とテクノロジーの融合によって、長期的にも安定した成長が見込めます。
IQVIAが4月末に発表したグローバル医薬品市場予測によると、グローバルの医薬品市場は、2025年まで年平均成長率(CAGR)で3~6%のペースで成長し、2025年には1兆6000億ドルに到達する見通しです。これは 1570億ドルにおよぶコロナワクチンを加味した数字です。
それによると、今後5年間のCAGRは先進国ではやや鈍化が見られそうな一方で、医療新興国(Pharmerging)では過去5年のCAGR7.4%を上回りそうな7-10%のCAGRで推移しそうで、医薬品マーケットの成長をリードしていきそうです。
なお、主要国の中で唯一日本だけがマイナス成長になる見通しで、これはジェネリックを中心とした医薬品の薬価引き下げを政府が強化しているためと言われています。さすが、デフレ+社会保障費が国の債務を圧迫する日本だけはありますね、無い袖は触れないということでしょうか。
まとめると、ヘルスケアセクターは、①ディフェンシブで安定性がある、②コロナ後も伸び代が残されている、③そして、今後の成長性を鑑みるに長期で高いリターンが見込める、ということになります。
ヘルスケアセクターETFの分析
いよいよヘルスケアセクターに投資できるETFを取り上げ、その特徴とリターンを分析していきましょう。
ヘルスケアセクターに投資できるETF
いよいよヘルスケアセクターに投資できるETFを解説していきます。本稿では以下の3つを挙げます。
バンガード・ヘルスケアETF (シンボル:VHT)
ヘルスケアセレクトセクターSPDR ETF(シンボル:XLV)
Iシェアーズ・グローバル・ヘルスケアETF(シンボルIXJ)
ベンチマークは、それぞれ異なっており、
VHTはMSCI アメリカIMヘルスケア指数、XLVはヘルスケア・セレクト・セクター、IXJはS&P グローバル1200 ヘルスケアセクター指数となっています。
IXJのみ全世界への投資で、VHTとXLVはアメリカの企業だけとなっています。
VHT、IXJ、XLVの概要と上位構成銘柄
次に3ETFの概要について見ていきます。
VHT | IXJ | XLV | |
銘柄数 | 505 | 115 | 64 |
ファンド総資産 | $15.5 | $3.16 | $28.80 |
上位10銘柄構成比 | 40.59% | 36.54% | 49.91 |
経費率 | 0.10% | 0.46% | 0.12% |
ベータ | 0.86 | 0.73 | - |
外国株比率 | 0% | 32.07% | 0% |
市場平均とどの程度乖離しているかをみるベータ値はVHTが0.86となっており、S&P500種指数など市場全体の動きよりもリスクが緩やかであることがわかります。IXJはさらにベータ値が低くなっています。なおXLVについては記載はありませんでしたが、セクターETFであること、後述する値動き等を見てもVHTに近くそれより若干低いと見て良いと思います。
銘柄数ではかなり差があります。VHTは満遍なくヘルスケアセクターの銘柄を保有している一方でXLVは64銘柄しかありません。
また、経費率ではVHTとXLVの低さが目立ちます。IXJは世界への投資ということもあって立ち位置がだいぶ異なるのがわかります。
次に、上位10銘柄の構成比を見ていきます。
銘柄 | シンボル | VHT | XLV |
ジョンソン&ジョンソン | JNJ | 7.85% | 9.26% |
ユナイテッド・ヘルスG | UNH | 5.93% | 8.04% |
アボット・ラボラトリー | ABT | 3.99% | 4.36% |
アッヴィ | ABBV | 3.58% | 4.23% |
ファイザー | PFE | 3.50% | 4.63% |
メルク | MRK | 3.46% | 4.14% |
サーモフィッシャー・サイエンティフィック | TMO | 3.36% | 4.20% |
イーライリリー | LLY | 3.32% | 3.88% |
メドトロニック | MDT | 2.96% | 3.55% |
ダナハー | DHR | 2.64% | 3.62% |
VHTとXLVは全て同じ企業で構成されていて、構成比率と比率の高さの順番が異なります。
IXJは欧州の製薬メーカーなどが上位に入ってくるのでちょっと顔ぶれは変わってきますが、10銘柄中8銘柄はVHTと共通です。
VHT、IXJ、XLVのリターン比較
最後にVHT、IXJ、XLVのリターンについて検証していきます。配当利回りはVHTが1.11%と低く、IXJは1.8%とまずまずです。IXJはどちらかというと成熟した銘柄が多いのかもしれません。
VHT | IXJ | XLV | |
直近配当利回り(税込) | 1.11% | 1.80% | 1.50% |
直近配当額(03/23/2021) | $0.699 | $0.53 | $0.48 |
年間平均リターン(1年) | 29.90% | 22.5% | 28.24% |
年間平均リターン(3年) | 18.02% | 15.6% | 17.44% |
年間平均リターン(5年) | 15.52% | 12.2% | 14.14% |
1年、3年、5年の年平均リターンはいずれもVHT>XLV>IXJとなっています。
ここで、Portfolio Visualizerを使って、2019年10月を初月として、初期投資として1万ドル分、それぞれのETFを購入した場合の2021年6月までのリターンを確認していきます。
その結果、VHTが1.5倍の1万5080ドル、XLVは1万4479ドル、IXJが1万3982ドルとなりました。それぞれ3%ポイント程度ずつ差がつくという結果になりました。
ただ、最大の損失幅(2020年1〜3月の2ヶ月間)をみると、VHT-13.16%、XLV-12.59%に対してIXJは-11.36%。ベータ値の低さが下落局面で強みとしてでた格好です。とはいえ、コロナ禍での下落幅は他のセクターと比べて大きくないため、あまり差がつかなかったと言えるでしょう。
なお2021年7月2日終値ベースの株価はVHT$250.93、IXJ$84.37、XLV$128.29です。
利上げ環境でも手堅く推移するヘルスケアセクターでディフェンスを
最も分散の効いているVHTのリターンが高いということは非常に面白いと思います。経費率も考えれば、ここは普通にVHTを買うのがいいのではないか、もしくは全世界に投資したければIXJを買うということになるでしょうか。
このようにヘルスケアセクターはいまから投資しても遅くないことがわかります。むしろコロナ禍のワクチン期待、アルツハイマー薬承認への加熱からひと段落したタイミングですので、悪くないと思います。ヘルスケアセクターは利上げ環境でも手堅く推移すると思われるので、ディフェンス用としてある程度持っておいて、長期で投資したいですね。