連邦準備制度(FRB)は8月18日、FOMCの議事録を公開し、テーパリング(資産買入プログラムの縮小)開始は、「ほとんどのFOMC参加者が年内が適当」と考えていることを明らかにしました。
テーパリングの時期は本決まりではないとはいえ早ければ年内開始、テーパリングは、その後の段階的な金利引き上げがセットになっています。したがってマーケットがテーパリングを織り込む時期、実際に金利が上がる時期に、金利の関係から他国に向かっていたマネーは米国に向かうわけですから基本的にはドル高を誘発します。
為替変動リスクを大きく意識せざるを得ないいま、改めて分散投資の中でも軽視しがちな「通貨分散」について考えていきたいと思います。通貨分散とは、通貨分散のメリット、デメリット、方法、そしておすすめの割合から、買い方まで解説します。
分散投資とは
分散投資という言葉を聞いたことがあると思います。これは、資産・銘柄分散、地域・為替分散、そして時間の分散など、性質の異なる金融商品を持ち合わせることで、特定のリスクイベント発生時に大打撃を被ることを避けるねらいがあります。
それらの目的はすべて、適切にリスクをコントロールすることにあります。リスク分散の効果を可視化し、ポートフォリオの最適化について説明した記事は以下になります。
-
-
きっと誤解している「リスク分散」の意味と正しい分散投資の方法
株式投資をする上で、切り離せないのが「リスク」です。「リスク」とは、マイナス面だけではなく、アップサイドとダウンサイド、双方の変動幅の大小のことを言います。 では、株式投資の「リスク」を減らしたい、と ...
通貨分散と通貨分散が必要な理由
通貨分散とは何でしょうか。
文字通り、複数の国・地域に投資することなどを通じて、複数の通貨の資産を組み合わせて持つことです。
「今後も日本から出る必要がないから、円だけで十分」と考える人もいるかもしれませんが、それでは資産を適切に管理できません。
理由1 “円資産だけ”のリスクに対処する
まず日本円だけで資産を持つことがリスクだということです。
外国為替市場において、使用される通貨は、1位ドル、2位ユーロ、そして3位が円です。うちドルが4割以上を占めるのですが、円が占める割合はたった1割にしかすぎません。つまり、わずか世界でわずか10%のところに集中投資していることになるのです。
仮に急激な円安が進んだ場合、あらゆる輸入品(原材料含め)が値上がりします(輸入インフレと言います)からあなたの生活を強く圧迫します。あなたのiPhoneも猛烈に値上がりします。海外に行こうものなら、強烈な物価高に直面し、自分が貧しくなったことを実感することでしょう。
そもそも日本は対外的にどんどん貧しくなっています。平均賃金はOECD(経済協力開発機構)加盟の先進国の中でどんどん地位低下し、いまや韓国の後塵を拝しています。
今後人口減少と高齢化の進展に伴い、ますます国力は低下し、国の財政状況は好転することは考えにくいです。そうすると、円の信頼はますます下がることになり、円安リスクは大きくなることが予想されます(今回のコロナ禍で先進国全体の財政状況が悪化したので、一人負けということはなくなりそうです)。
もちろん、米国企業の株式など対外資産を保有していれば、円安の時に恩恵を受けることができます。円安に進んだ分、輸入インフレが起こった分を相殺できるだけでなく、円換算の資産が膨大に膨れることになるからです。
理由2 「高いリターン」を得られる機会ロスを防ぐ
機会ロスという観点からも通貨分散の有効性が挙げられます。
米国経済の成長率は日本の成長率もよりも高いです。株式市場の成長率も当然、米国の方が高いです。
上は日経インデックス400上場投信とVTI(バンガードトータルマーケットインデックス)のリターンの比較です(JPYで調整後)。2014年3月から現在までの約7年半のリターンを示したものですが、日経400が59.73%のリターンであるのに対し、VTIは152.2%を叩き出しています。
ましてやゼロ金利政策のもと、日本国債や債券、預金では資産は何も増えません。
成長率の低い日本株だけに投資せずに、通貨分散を図るのは機会ロスという観点からも有効です。
なお、通貨分散する上では、通貨ペアの相関性を考慮する必要があります。このサイトでは直近200日間の相関を確認できます。
通貨分散のメリット
通貨分散のメリットは上の項目で説明したことをまとめると、以下の3点に凝縮できます。
- 資産全体の値動きのばらつきを抑える
- 為替リスクから資産を守る
- 相対的な購買力の低下を防ぐ、輸入インフレの相殺効果
- より成長性の高い外国資産への投資を通じて、高いリターンを得る
通貨分散のデメリット
通貨分散のデメリットは大きく以下の3点。
- 管理が大変、面倒
- 主要通貨ドル・ユーロ・円以外は為替変動が大きい
- 短期で資産を増やしたい場合は不向き
とくに主要3通貨以外は、経済環境の変化などで大きく為替が変わりやすいので、注意が必要。全く入れないか、ポートフォリオ全体に占める割合を小さくすることが大事です。
また、ばらつきを一定水準内にコントロールするのが分散投資の目的ですから、短期で資産を増やしたいニーズがある人には向いていません。
仮想通貨は通貨分散になるのか?
仮想通貨は通貨分散の1つになるのか?ということですが、私は「分散になる」と考えています。少額投資が可能で、ビットコインなどは流動性も高いので、新興国通貨に投資するよりもよっぽど安定しています。
ただし、分散にはなるものの、仮想通貨は各国貨幣と違い、資産の裏付けがないうえ、各国がデジタル通貨の発行を進めていますから、私は長期的には仮想通貨には未来がないと考えています。
したがって、分散投資云々の前に、金融資産としての投資判断として、「仮想通貨は短期〜中期はありだけど長期はない」というスタンスなので、私は基本的に組み込みません。短期用の遊び資金のなかで売買するだけです。
通貨分散、どんな割合で買えば良いの?
通貨分散は、具体的にどんな買い方が良いのでしょうか?
基本的には、リターンが高く、情報も手に入りやすく流動性も高い米国株をベースにするのが良いです。
おすすめパターンは、「株式」の中では、
- 米国株:40~50%
- 米国含む全世界:20~30%
- 日本株:20~30%
- 中国、新興国株:残り5~10%未満
例えば米国4:全世界3:日本2:新興国1だと、米国の高い成長性を享受しながら、満遍なく先進国へも投資しつつ、新興国も拾えるという感じです。まあ、先進国株はうち6割以上がアメリカなので、実質は米国6弱:その他先進国1:日本2:新興国1。これだと怖いと思えば全世界と米国の割合を同じにする、日本を増やすなど、バリエーションがあると思います。
私は米国を信じているので、株式の中では実質米国7:日本2:その他先進国1ぐらいです。
カンタン、手軽に通貨分散する方法
手軽にこの割合を維持する方法があります。
月10万円を投資に回す場合、
全世界で3万円、日本で2万円投資信託を購入し、
VTIなどを米国株ETFを毎月5万円買うだけです。
それすら面倒ならすべて投資信託にして、定期積み立てにすれば、完全ほったらかしができます。
(私はETFメーンなので、こういう買い方ではありませんが、機械的に買い続けることのメリットを実感しているので定期積み立ての投信の割合を増やす考えです)
実は以前まで中国株を5〜10%の比率で持っていましたが、7月に中国政府による統制強化が始まったことを受けて一旦全部売却しました。中国株は分散投資にはとても魅力的なピースなのですが、政府の「株主利益を軽視し、国家を優先する」市場経済とは真逆の対応を考えると、いまは投資しません。したがって、その他新興国で面白いETFがあれば、少し買ってみようかなと思っていたのですが、テーパリングが始まれば、結局強いアメリカに資金流入が進むので、買えずにいるという状況です。