前回、サントリーホールディングス新浪剛史社長が掲げた「45歳定年制」が、経済同友会の案としては不適切だが、個別企業の取り組みとしては非常に面白いことを解説しました。
もし、この「45歳定年制」が導入されたら、われわれの所得、格差はどうなるのでしょうか?気になる「年金財源」の影響も含めて考えた上で、今から立てられる対策を明らかにします。
「45歳定年制」の本質は、企業収益最大化と貧富の差の拡大
新浪社長の発言を整理して考えると、「45歳定年制」は、専門性の高い人は45歳を超えても自社や他社、あるいは独立しても高い収入を得られる一方で、専門性の低い多くの人は、安い給与で再雇用の道を選ぶか、他の企業に移るしかありません。他の企業に移るといっても、45歳を超えていて専門性がなければ、当然移れないか、安い給与で働くしかありません。
「45歳定年制」の発言の要旨とその課題、実効性については以下をご覧ください。
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サントリー新浪剛史社長「45歳定年制」の波紋 従業員と株主にとってのメリットとは
サントリーホールディングスの新浪剛史社長が経済同友会の夏季セミナーで発言し、大きな波紋を投げかけた「45歳定年制」。この発言の裏側にある企業の論理と、日本の制度と文化を考慮した実現性、被雇用者にとって ...
一方、企業としては、専門性の高い人材に効率的に高い賃金を投入できる上、その他大勢の社員をわざわざ高額で雇い続ける必要がなくなります。幹部人材の給料は一気に上がるでしょうし、彼ら専門人材の活躍により企業の収益も最大化されることも期待できます。
その一方で、専門性の低い社員は45歳以降再雇用という形態になり、給料は劇的に下がります。おそらく年収300万円台とかになるのではないでしょうか。
つまり、この「45歳定年制」の本質は、投資家、経営者、企業に残留できた幹部に富が集中する一方、その他大勢の社員の収入が激減することを意味します。
貧富の差がさらに拡大するわけです。
「45歳定年制」の悲惨
専門性がある人は、高い給料で働き続けることができ、他社に高級で召抱えられることも可能です。
一方、これといった専門性のない人にとって「45歳定年後」は悲惨です。
これまで大企業なら1000万円ぐらいはもらっていたのに、45歳定年再雇用となれば、一気に300万円台(私の予想です)まで落ち込み、そこから先の昇給は望めません。
この300万円台の年収では、1人で家族を養うのは簡単ではないし、豪華なマイホームも現実的ではない。すると、いっそう共働きは進むでしょう。現在夫婦2人以上の世帯の共働き率は64%ですが、この数字は一気に上がるはず。そもそも子供を持つことや、結婚自体を諦める人も増えるかもしれません。
年金問題と45歳「定年後」の悲哀
最も悲惨なのは、「定年後」です。
これまでであれば、定年後は、長い「お勤め」から解放され、自由になる時間が待っています。
しかし、45歳で定年を迎えたところで、働かずには生きていけない。定年前よりもむしろ長い「定年後」という労働期間が待っているわけです。
その理由は年金問題です
年金財源不足で、受給時期は70歳に?
おりしも、田村憲久厚生労働大臣は9月10日、少子高齢化で国民年金(基礎年金)の水準が大幅に減る見込みのため、余裕のある厚生年金(会社員が将来給付を受ける)から財源を配分したい考えを示したばかり。
仮にいまと20年後で物価が変わらなかったとすれば、年金受給額は今よりも大きく減ることは間違いありませんし、受給できる年齢も現行の65歳から、68歳へ、そして70歳まで引き延ばされることは必至です。
ちなみに、「いまと物価が変わらなかったとすれば」としたのは、年金受給額はその時々の現役世代の収入水準に対して、一定の「所得代替率」を掛けた金額を年金として支給するからです。
2021年の所得代替率は62%で、現役夫婦二人世帯の手取り月収は約33万円だったので、夫婦二人世帯の年金は約22万円でした。
20年後には、厚労省が発表した最悪のシナリオだと、所得代替率が50%まで下がる可能性があります。その場合、現在の物価のままだと仮定すると夫婦で約16万5000円で暮らすことになります。家賃などがなければなんとかなりそうですが、賃貸世帯の場合は、余裕はまったくありません。
老後に備えて、お金を貯めておかなければならないのです。しかし、年収300万円台で1馬力では貯められるお金にも限界があります。
年金制度と将来的な受給額の見通しについては以下の記事を確認してください。
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未納は後悔する!年金が破綻しない3つの理由 いま40歳、将来いくらもらえる?
「少子高齢化と人口減で、年金は破綻する。納めた分が返ってこないのだから納めない方がいい」 こんなことを言う人がいますが、それは誤解している可能性が高いです。年金は破綻しないし、支払わないと将来後悔しま ...
結局は45歳以降70歳ぐらいまで、「遅くなった老後」のために、延々と年収300万円台で働き続けなければならなくなるわけです。
ただ、それは必ずしも不幸とは言い切れません。幸せを謳歌することはできます。
45歳定年制、負け組から抜け出す方法は
定年後300万円ワーカーに多くを望まれることはないので、まったり残業もなく働くことができるでしょう。金がかからないなら、趣味の時間をたくさんもうけることも可能で、少ない給料ながら楽しく暮らすこともできます。そうしたことを楽しみと思える人にとっては、とても良い働き方と言えるかもしれません。
また、副業したり、資格の勉強をする時間も取れるでしょう。定年前から頑張っていれば、専門性をつけて45歳以降も高い給与水準で働けたわけですが、45歳定年後から専門性の勉強を頑張っても間に合います。もちろん副業と投資を始めれば老度の備えを作ることができます。
月6万円副業し、すべて投資に回すと......
仮に副業で月6万円稼げたとして、そのお金を全額投資に回せば、年72万円を投資することになります。これを45歳から60歳までの15年間続け、その後は副業は体力的に厳しいということでお金をやりくりしながら70歳で年金を取得するまで月2万円(年24万円)だけ投資に回すとします。
ポイント
45歳〜60歳 年72万円投資
61歳〜69歳 年24万円投資
を行い、年間5%の利回りで運用すると、
69歳までの間に3050万円貯めることができます。
これは45歳まで投資ゼロでこれだけ貯められるということです。
その後70歳からは年金暮らしとなりますが、前述の通り、年金だけでは暮らせないので、年間200万円を取り崩すことにします。
税金は20%と仮定すると、年160万円のキャッシュインとなり、月額にして13万円が加算。年金16万5000円と合わせ、月額29万5000円で夫婦2人世帯が老後を過ごすという、ゆとりのある水準となります(この場合90歳まで長生きしたとしても1000万円以上資産が残ることになります)。
ただし、これは健康で働き続けられるからこそできる芸当。病気になればこのプランは脆くも崩れます。
結論 年収300万円時代は現実のものに 今から行うことは!
以上のように、45歳定年制の世界をシミュレーションしてみました。
悲惨な老後を防ぐには、以下の3つのどれか、あるいは複数を実践することが求められます
- 1つは 専門性を高めること 誰でもできる仕事ではなく、潰しが効く専門性の高い仕事、資格を生かした仕事
- 2つは 給与所得以外の収入を得ること。それは副業と投資
- 3つは蓄財 人生を楽しめる範囲内で蓄財に励み、投資額を増やすこと
45歳定年制の時代がくる現実性は低いと思いますが、会社が倒産して再就職先として300万円台の仕事にしか就けずに人生が進む可能性は低くはないでしょう。病気で仕事につけなくなることもあります。多くの人が年収300万円台に落ちる可能性をはらんでいるわけです。実際、17年前に森永卓郎さんが「年収300万円時代」を提唱したとき、誰もそんな時代の到来を信じていませんでしたが、いまでは年収別構成比で最も多いのは300万円台で、次に多いのは200万円台。この格差拡大の流れは変わりません。
自分と家族を守るためには、以上の行動をいまから起こしておくしかないのです。
専門性、副業、投資、節約。皆さんはいくつやっていますか?