できるだけ早期に経済的に自立し、会社に属すことなく、質素でいいから自由な生活をしたい—
そんな、お金にも会社にも、居場所にも縛られない生き方、FIRE(Financially Independence, Retire Early)がミレニアル世代を中心にムーブメントとなっています。
FIRE後、たった一度しかない人生を謳歌している人はたくさんいます。その一方で、後悔している人も少なからずいるようです。実際、このFIREという生き方、決して万人に適した生き方ではないと思います。そこで、FIREで後悔する人の特徴と原因について解説したいと思います。FIREする前に、「FIRE後、自分はどんな生き方をしたいのか、それはFIREしないとムリなのか」を突き詰めることが大事だと思います。
FIREで失敗、後悔すること
FIREで失敗、後悔することには大きく以下の6項目があります。
FIREで失敗、後悔すること6つ
- 資産が足りなくなる
- 質素な生活に耐えられなくなる
- 生きがい、やりたいことがない
- 孤独である
- 社会的信用がない
- 移住先の人間関係
それぞれについての原因と対策を以下で解説していきます。
資産が足りなくなる
資産が足りなくなるは良くある失敗です。
資産が足りなくなる原因
「詰めが甘い」例としては、毎月の消費支出を少なく見積りすぎていた、税金を考慮していなかった、FIRE直後のもっとも金融資産がある時期に暴落を経験して、一気に計算が狂った(配当・分配金だけで計算していればそういう問題にはならない)、があります。
このほか、自身や家族が重い病気にかかる、想定外の支出が発生する、などです。
資産が足りなくなる場合の対策
対策は、FIRE後に起こり得る全支出シーンを洗い出し、お金を算出することです。その際、月の支出は一定程度の余裕を持たせます。その後、保険で賄えるものは保険に入る、貯蓄の範囲内で賄えるものは貯蓄で、というように切り分け、貯蓄の場合は、必要な金融資産総額を増やすという行動が必要になります。
FIRE後は金融資産による配当収入などの不労所得が生活の糧となるので、なるべくリスクは減らしておきたいです。原則的にボラティリティの高い金融資産は減らし、多少消極的ともいえる資産運用で確実に生活の糧を生み出していくのが望ましいです。配当利回り、分配利回りが安定的に高いETF、債券を中心に資産を構築するのが良いと思います。
資産が足りなくなるというのは、①計算ミス、②計算が甘い、③見切り発車のいずれかですので、計画的な人は問題ないはず(そういう人だからFIREできるわけですが)。
もちろん、「FIRE≠働かない」ではないので、金融資産の目減りを防ぐ分お金を稼ぐことが大事になります。その場合、アルバイトやパートとして働く、フリーランスで仕事を受ける、などをします。専門的なスキルがあると良い報酬になったり、仕事が得やすいので、その点も事前に考えておく必要があるのと、労働時間が増えすぎては元も子もないことを理解しておきたいです。
退職後に会社や社外の人とのコネクションを通じたフリーランスの道もある人は、ひとまず退職後にフリーランスになって、ある程度生活と収入の道を固めた上で、受ける仕事を絞っていき徐々にFIREしていくと成功しやすいと思います。
質素な生活に耐えられなくなる
質素な生活に耐えられなくなるは、残念ながら良くある後悔です。
質素な生活に耐えられなくなる原因
あなたが40歳で1億円を貯めて、年間所得400万円(税引き後320万円)で暮らしているとして、10年後も働き続けるあなたの親友は執行役員に昇格し、年収も1500万円を超え、月に1回の海外出張はビジネスクラス、年2回海外旅行を楽しみ、車はピカピカの外車を乗り回しています。
ここで、その親友をうらやましがる人は、本来的な意味でのFIREには向いてないです。それでも、ある程度の消費をしたければ、大量に金融資産を積み増してFIREするしかありませんが、それはFIREできる年齢が大幅に後ろ倒しになることを意味します。
一方、その暮らしをうらやましがることなく、自分の考える「FIREという生き方」に満足し、心の底から幸せだと楽しめる人がFIREに向いている人だと思います。
もちろん、汲汲とした暮らしは本人にとっても本意ではないでしょうから、例えば年に1回、海外旅行をするということも固定支出に入れると良いと思います。
質素な生活に耐えられなくなる場合の解決策
そもそも本来的な意味でのFIREに向いてなかったというのは置いておいて、「消費意欲が高い人がFIREするにはどうすれば良いか」という問いに対する答えに置き換えて、考えていきます。
答えは2つ。FIRE前にため込む金融資産を増やす、生活資金以外の遊ぶ金はつど稼ぐ、です。
普段の生活は十分暮らせるだけの年間不労所得があるのであれば、あとはあそぶ金欲しさに働くだけです。生活資金ではなく、遊ぶ金のために働くなら、モチベーションもわくのではないでしょうか。
生きがい、やりたいことがない
生きがい、やりたいことがないも、残念ながら良くある失敗例です。
生きがい、やりたいことがない原因
これは、FIREを目的化した人が多いと思います。FIRE後の目標を設定せず、「ただ、もう働きたくない」の一心で達成した人々です。いままで仕事に一意専心してきたわけですから、それがなくなれば、その人は何もないのと同然。毎日暇そうにしている定年退職後のおじいさんとあまり変わりません。
生きがい、やりたいことがない場合の解決策
目標を持つことです。仕事であれば、仕事を通じた成功体験や成長、自己実現が得られ、それ自体が報酬と並ぶ仕事を続けるモチベーションになり得たのですが、仕事しか目標がなかった人は、仕事をなくせば「抜け殻」と同じです。
FIRE前にどんな生活を送りたいのか、その生活を毎日過ごしても自分は心の底から楽しめるか、人生を通じて何か新しいチャレンジをFIREで成し遂げられるか、ということを考える必要があります。
昔の知識人、高等遊民みたいな働かずに日がな読書をする暮らしをして、その暮らしぶりをSNSとブログで綴ってもそれなりにフォロワーは得られて、生きがいになるかもしれません。
「FIRE済み、高等遊民の一日」みたいな。
あとは社会貢献、学生に戻る、弁護士をめざすなど。経済的に自立して、働かなくても困らないからこそできることを始めるのが良いと思います。
孤独である
孤独は、特に真面目な男性がFIREした場合のあるあるです。
孤独である原因
仕事が唯一の社会とつながるコミュニティだった人の場合、FIRE後、孤独に悩むわけです。
家族や友人、新たな趣味のコミュニティなどを作れば良い、と言いますが、それはコミュニティづくりが円滑にできる人の残酷な提言。孤独に悩む人は、それができないから悩んでいるのです。
孤独である場合の解決策
スポーツや地域のサークル活動、社会貢献活動をして、人と積極的に関わるようにするのが良いと思いますが、おそらくそういうのが苦手な人もいるでしょう。無理に孤独であることを悲観せず、Loneliness(一人ぼっちで寂しい意味の孤独)ではなくSolitude(一人でいることを歓迎する意味の孤独)であるなら、あえて深く考えずに家族とごく親しい親友たちだけの小さくとも密なコミュニティで生活すれば良いと思います。
共通の趣味や生活もコミュニティ化できるので、FIREコミュニティを作れば、色々と刺激を受けたり面白い出会いも得られると思います。また、自身のコミュニティの構築・維持のために働くのがい良いでしょう。
社会的信用がない
社会的信用はFIREと引き換えに失うものです。物凄い能力を得る代わりに泳げなくなるようなもので、仕方がないことです。
正社員は、金融機関から多額の金を借りられるし、住宅も借りられます。それは金融資産の多寡ではなく、定期的に収入が入ることを、信用の証にしているからです。
社会的信用がない場合の対策
クレジットカードの新規契約や住宅ローンなど、社会的信用が必要なものはサラリーマン時代に済ましておきましょう。
社会的信用を維持したければ、短時間正社員という道もあります。人手不足の小売業はいつも募集しているので、そこに手を挙げれば採用されると思います。
米国では社会保険料が高いのでFIRE後も定期的にアルバイトやカフェで働くパートタイムFIRE、サイドFIRE、バリスタFIREなどがありますが、日本は充実しているのでさほど気にしなくても良いと思います。
移住先の人間関係に悩む
あなたはよそ者で、しかも仕事もしていない人なので、地域のコミュニティに溶け込むには時間がかかるでしょう。人間関係構築が苦手な人はとくに困ることも多いでしょう。
移住先の人間関係に悩む場合の対策
人間(動物全般)は、知らない相手を恐れる習性があると同時に、人間関係はギブ&テイクで成り立っています。
まずは、あなたがどんな人か(自慢話や不労所得で悠々と生きているということではなく)、そしてあなたをコミュニティに入れるとどんなメリットがあるかを理解してもらいましょう。地域の草むしりに積極的に参加する、家の周りだけでなく近所も掃除する、毎日声がけをする、子供の登下校時に見守りをする、など。地域にとって必要だなと思ってくれるまで、ギブは100回でも200回でもする必要があります。
それでも、いつまで経っても認めてくれない閉鎖的なコミュニティであれば、それはあなたとは縁がなかったということです。せっかく場所に縛られない暮らしができるのだから、別のところ、特に都市部に引っ越したら良いと思います。
結論として
FIREができる人は目標を立てて、その達成までのプロセスをゲーム感覚で楽しめ実現できる、課題遂行能力が高い人です。
一方で、FIRE後の明確な目標を持ち、その達成に向かうことは、自由に過ごせる環境下では案外難しいものです。
さらに、コミュニティに関しては、本人の性格に起因するところも多く、解決は簡単ではありません。
FIREの最大のメリットは、お金にも会社にも、居場所にも縛られない生き方です。その生き方が正しいと思って進んだのであれば、その生き方を満喫すべきです。ただ、私は、お金はともかく、会社にも居場所にも縛られる生き方の方が幸せな日本人はたくさんいると思います。結局縛られる暮らしをするからこそ、たまに旅行で自由な暮らしをできるから楽しめるという。
結局は、自由に慣れていない人が自由を満喫できるのか、という本質的な話になりそうです。