投資の神様にしてオマハの賢人、ウォーレン・バフェット。総資産は10兆円を超え、90歳となったいまでも現役の投資家・経営者として、株式市場の最重要人物であり続けています。単なる投資会社というよりは度重なるM&A(合併・買収)を繰り返して巨大コングロマリットへと変貌したバークシャー・ハサウェイ。同社を率いるウォーレン・バフェットの経営術を解説しました。
本稿は書籍『バフェット帝国の掟』、『マンガでわかるバフェットの投資術』のエッセンスを元に、私の意見を加えてまとめました。
ウォーレン・バフェットとバークシャーハサウェイ
1930年ネブラスカ州オマハに生まれたウォーレン・バフェットは、ベンジャミン・グレアムの『賢明なる投資家』に出会い、ビジネススクールでそのグレアムに師事。グレアムの会社で働いた後、26歳で会社を興し、その後盟友チャーリー・マンガーと出会い、35歳でバークシャー・ハサウェイの会長に就任。投資とM&Aを重ねていきます。
2000年のドットコムバブルではデジタル企業に一切投資を行わず「過去の人」と揶揄されましたが、同バブル崩壊を無傷で切り抜けるとIT企業への投資も開始。11年にIBMの株を、16年にはアップルの株の購入もスタート、20年には日本の五大商社のそれぞれ5%を保有する大株主になり、21年3月時点で資産1000億ドル、世界で10本の指に入る資産家となりました(1位はアマゾンのジェフ・ベゾス)。
バフェット率いるバークシャー・ハサウェイ
バークシャー・ハサウェイは、2000億ドル以上の有価証券を持つ投資会社と、M&Aにより傘下に収めた保険会社やエネルギー会社、小売企業といった事業会社を通じて多角的な事業を行うコングロマリット企業という2つの性格を有する巨大企業です。
20年度の売上高は2455億ドル、純利益は425億ドル。
その純利益の内訳と18年度〜20年度までの推移は以下のとおりです(単位:100万ドル、決算短信よりかぶうさ作成)。
2020 | 2019 | 2018 | |
保険引き受け | $657 | $325 | $1,566 |
保険再投資 | $5,039 | $5,530 | $4,554 |
鉄道 | $5,161 | $5,481 | $5,219 |
公共とエネルギー | $3,091 | $2,840 | $2,621 |
製造、サービス、小売 | $8,300 | $9,372 | $9,364 |
投資とデリバティブ の収益 | $31,591 | $57,445 | ($17,737) |
その他 | ($11,318) | $424 | ($1,566) |
純利益(合計) | $42,521 | $81,417 | $4,021 |
投資で巨額の利益を上げていることは事実ですが、それ以外の事業トータルでも投資利益の2/3程度を稼ぎ出していることがわかります。ガイコオートインシュランスやBNSF鉄道など69社(同社20年アニュアルレポートより算出)を傘下に持ちます。
総従業員数は実に36万人。ウォーレン・バフェットはどのようにして、この巨大コングロマリットを経営しているのでしょうか?ただの天才投資家ではないのです。
ウォーレン・バフェットの経営の原則
ウォーレン・バフェットの投資の原則は、①Margin of safety、安全域の確保にあります。つまり株価が企業の内在価値と比べてどれだけ割安かを重視しています。これが投資において、損失を軽くするために意識すべき価格差となるわけです。
加えて、
②事業内容が単純明快であること
③安定した収益力・業績であること
④今後も成長が期待できること
⑤信頼できる経営者がいること
この5つを満たす企業に投資すべきだというのが、基本的なバフェットの考えです。
ウォーレン・バフェットがM&Aをする場合も基本は同じです。
単一の事業会社がM&Aをする場合は、同業やライバルに投資をしてマーケットにおける自社の立ち位置をより強固にする選択を取ります。しかし、バフェットは特定の業種にM&Aをするわけでも、自社の競争力を高めるためにM&Aをするわけでもありません。単純に、企業の内在価値と比べて割安な、ピカピカの成長性を持った企業に投資するという考え方なのです。
とくに年間利益は大きければ大きいほど良く、さらには強力な競合が参入しようと思わない小さくてニッチな市場で事業をしていることも条件に入ります。
つまり、有能な経営者がいて、独自の強さを持っており、ニッチだけれどもブルーオーシャン状態の企業で、かつ陳腐化リスクが小さい企業を探し当てて、割安な価格で買収するというのがバフェットの得意技なわけです。
ウォーレン・バフェットの買収提案方法
バークシャー・ハサウェイの買収の流儀はどういったものでしょう。
通常、ファンドなどが企業買収をする場合、
①人員削減などでコストカットして利益を最大化、
②保有資産を売却の上、現金化し株主に配当、
③借入により資金調達し、バランスシートを極大化させつつ投資を拡大、④経営陣の刷新
以上により、レバレッジを利かせ、配当の原資となるROEを最大化させる戦略を採ります。
しかし、バークシャー・ハサウェイは真逆の提案をします。
従業員も既存の戦略も既存事業も経営陣も維持。さらには買収先企業を永久的に保有することも提案します。
その見返りとして、バークシャーは比較可能な上場企業よりも割安な買収価格を提示し、それを容認してもらいます。そして、株式交換ではなく現金で購入します。
ウォーレン・バフェットの経営 シンプル・迅速・小さな本体・権限移譲
ウォーレン・バフェットの経営ははっきり言えば簡潔です。
バフェット流経営の要諦
- 小さな本社で子会社に権限移譲
- 経営者を信頼する
の2つです。
まず1. に関しては、官僚的な経営判断の遅い組織を何よりもバフェットは毛嫌いしています。シンプルでフラットな企業組織を維持し続ければ、企業規模が大きくなっても迅速な判断をすることができます。
そのためにバフェットが行っていることが、「小さな本社で子会社に権限移譲」することです。
バークシャー・ハサウェイは連結ベースで36万人が働く大企業ですが、オマハにある本社にはバフェット以下30人未満しかいません。本社の間接費用はわずか100万ドルしかありません。
なぜ、でしょうか。
それは、巨大企業を一人の人間が隅々まで注意を払うことは難しく、子会社に権限を移譲し、子会社の経営者たちも現場を知る部下たちに大幅に権限を移譲しているからです。
例えば中核子会社のバークシャーハサウェイエナジーの従業員は2万3000人もいますが下位の組織に機能を移譲し、本社の人員はわずか20人しかいません。
企業が大きくなるたびに組織を再編し、権限を委譲するようにして、「官僚化の罠」から逃れようとしています。
この権限移譲の長所は問題に近い場所で迅速に意識決定できる点です。
逆に短所は、下部の組織に権限移譲するが故に、バフェットなら絶対しない、驚くような意思決定のミスをしてしまう可能性がある点です。
それでもバフェットは、「官僚制度がもたらす過度な意思決定の遅れで目に見えないコストが発生するくらいなら、何度か間違った意思決定をして目に見えるコストが発生した方がいい」と割り切っています。
その意思決定のリスクを最小化するために、バフェットは2. 信頼できる経営者に経営を任せているわけです。
成長資本を借入に頼らないカラクリ
借入によりレバレッジを効かせ、ROEを最大化させる--
投資対象として魅力的な企業の典型的な戦略です。
しかしウォーレン・バフェットはこうした経営スタイルはとりません。
まず、金融機関からの借入に頼ることなく、事業や買収に必要な資本を内部留保で賄います。これは主にバークシャー・ハサウェイが傘下に持つ保険会社を活用します。保険料を受け取った後、実際に支払われるまで社内に滞留する資金「フロート」を他の事業投資に振り向けるわけです。多くの保険会社は純粋投資に振り向けますが、資金需要の高い実業を行うバークシャー・ハサウェイは、企業の成長資金に使っているわけです。
いわゆる、「回転差資金」というものです。これは自社グループで稼ぎ出したキャッシュですから、調達コストがかからないわけです。バークシャー・ハサウェイではフロートに加え、繰延税金も同様に、時価が上昇した資産を売却するまで税金を払う必要がないので、この時間差を活用して成長投資に振り向けています。
書籍『バフェット帝国の掟』によれば、こうした資金源の総額は1750億ドルにも膨らんでいるといいます。これだけ潤沢なキャッシュがあれば、いつなんどき買収の話があったとしても、即決・即金で話をまとめることができます。
まとめ 手堅く抜け目なく、日本企業に近い?
投資家として名を馳せるウォーレン・バフェットですが、経営者としての手腕も手堅くそして抜け目ないです。
ポイント
- つの事業に集中させるのではなく事業を分散させてリスク分散
- いたずらに借入してバランスシートを膨張させるのではなく、堅実な運転
- グループで自己完結するキャッシュマネジメントサイクルを創造
- 権限移譲で規模が大きくなっても現場視点でのマネジメントを実現
- 意思決定のミスが起こるリスクは、優秀な経営者を信頼して、自立型マネジメントを敷く
以上の取り組みは、米国型というよりは日本型の経営スタイルとも相通じるところが多いと思います。バフェットは20年に日本の五大商社の大株主になったことで話題になりましたが、商社のビジネスモデルに自分の投資・経営スタイルとの共通項を見出したのかもしれません。
バフェット帝国の掟 50年間勝ち続けて60兆円を生んだ最強ビジネスモデル
本書は、ウォーレン・バフェットが投資家としてだけでなく、いかに経営者としても優れているかを理解できる一冊です 「バークシャーに投資しておけば大丈夫」、と多くの株主が確信していることも納得の内容です
マンガでわかる バフェットの投資術(SIB)
本書はバフェットの投資術の基本を誰でも簡単に勉強できる入門書として最適です。しかもマンガだからと侮ることなかれ。日本大学商学部の濱本明教授が総監修しているため、実践的な内容も盛り沢山で、例えば本ブログで挙げている「安全マージン」についての具体的な算出方法も記載してあり、とても役立ちます。