投資で大事なことは、①収入を増やすこと②支出を減らすこと、③そして投資できる資金(入金力)を増やすことの3つです。今回はそのうちの支出を減らすことに関して、さまざまな買い物行動がいかにムダに溢れているか、そしてそのむだをなくす方法を解説します。本稿は『9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」』(秀和システム刊、橋本之克著)で得られた気づきや内容をベースに私の体験や考えを加味したものです。
本項のポイント
- 消費行動のほとんどが衝動買い(非計画購買)
- サンクコストの罠に注意せよ
- 人は損したくないから「お得」に走ってしまう
- 「安いから買う」はやめよう
- アンカリング効果に気をつける
- 6衝動買いをコントロールする!
ムダな買い物の典型例とは
値段が安いスーパーでまとめ買いするけど、ついつい買いすぎて予算をオーバーしてしまう。そんなことはありませんか?
実はそれ、得をしたつもりで、損をしているかもしれません。
買い物は、計画購買と非計画購買に分けることができるのですが、前者は抑制の効いた行動である一方、後者は値段の多寡に限らず衝動買いの部類に入ります。
もちろん非計画購買がすべて悪いわけではありません。
スーパーに買い物に行く時、その日のメニューを考えずに訪れることが多いと思います。そんな時は、店内を歩けば「根菜が安い」「今日は週に一度の牛乳の特売」「鶏肉が安い」などの情報が得られ、あるいはもっと直接的に「今夜は●●で決まり」といったPOPを見て、その日のメニューが自然と決まっていきます。
統計上「3人に2人の消費者がスーパーに入るまでその日のメニューを決めていない」ことがわかっています。つまり、これは消費者の最大の悩みである「メニューの決定」を店側が支援するミールソリューション機能の一環なのです。
逆に店に行く前にメニューを決めたとしても、該当商品が揃わない、あるいは相場の関係で高いということもあります。だから非計画購買自体は悪いものではないのです。
一方で、商品が安いからといって、あれもこれもカゴに放り込んでいたら、必要以上に買いすぎることになります。なくてもいいものを買うから、ムダに食卓が豪華になり、家族は喜んでも家庭の財布には優しくありません。
楽しいコストコは無駄遣いの宝庫
先日仕事先の人とコストコの話になりました。その人は旦那さんと2人暮らしであるにも関わらず、コストコを2週間に1回訪れ、毎回数万円の買い物をしているヘビーユーザー。
曰く「安くて、楽しいからつい買っちゃう」とのことで、オリンピック前にコストコで大型の4kテレビを買った時も「上手いタイミングで値下げしてくるし送料も無料」だと笑っていました。まんまと売り手の思惑に乗せられている格好ですが、本人たちはコストコに大満足していて、かつものすごく得をしていると感じています。だから、コストコが大好きだし今後も行き続けると言います。
コストコに潜むサンクコストの罠
このコストコに何度も行ってしまう理由の一つには「前払い年会費制度」が関係しています。コストコはすでに以下で解説したとおり、商品は原価スレスレで販売し、年会費で儲けるビジネスモデルです。だから、圧倒的に商品価格は安いから、お得はお得です。
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しかし、行動経済学の視点で見ると、これこそが「無駄遣いの元凶」なのです。
なぜなら、一度払ってしまったお金に対して、「せっかく払ったのだからその分使わないと損をする」と考え、無理やりでも買おうとする「サンク(埋没)コストの罠」にかかってしまうからです。
年会費に費やした金は戻ってきません。だからそれを放っておけばそれ以上支出が増えることはないのに、実際は、「もったいないから店に行って買い物しよう」という来店モチベーションになっているのです。
コストコの年会費は、日本では一般会員で4,840円、前述の仕事先の人のようなエグゼクティブ会員は9,900円(共に税込み)と高額。サンクコストの罠が効きやすいのです。
それでもコストコは、圧倒的な安さと満足感を背景に、年会費の更新率が91%ときわめて高いのが強み。
安いからお得→また行きたい→せっかくだからたくさん買って年会費の元を取りたい→この1年でたくさん買って得をしたからまたこの先も得をしたい→年会費の更新
という顧客の消費行動サイクルが回っているのです。とてもよく人間の購買心理を理解していると思います。
このように強い小売業はあの手この手、時には行動経済学に則って、消費者の財布の紐を緩めようとしています。
特売や激安スーパーのまとめ買いは損をする理由
「損をしたくない」と思う傾向が強い人ほど損をします。
損をする買い方とは例えば
1特売品をまとめ買いする時
2普段なら買わない嗜好品が激安で販売されている時
などです。
まとめ買いは確かにユニットプライスは安くなりますし、必ず使うものであればお得に買うことができます。しかし、それも適切に使う量の範囲内であることが条件です。
大容量の商品を安く 必要以上の量を買うから、つい利用量が増えたり、食べすぎたり、最悪の場合、捨てることになったりします。
2に関して言えば、安さに釣られて、買わなくて良いもの、どっちでも良いものを買ってしまうケースです。嗜好品だから、なくても困らないものだし、どうしても欲しいものでなければ買った後そこまで執着しません。
いわゆる、「買ったことで満足してしまう」ような商品です。
でも、なぜ、そんな消費欲求をわれわれは抑えることができないのでしょうか?
ダニエル・カーネマンの価値関数が示す、人間の不条理な行動心理
なぜなら人は、「安く買える機会をみすみす逃すことは損失だ」と感じるからです。
これを明らかにしたのがダニエル・カーネマンです。「横軸に人間が感じる損失や利得の程度」「縦軸に価値の大きさ」を設定して、それをグラフ化した価値関数を表しました。グラフを見てわかるとおり、人は、同じ額の損と得だったとしても、損した時の不満や後悔は、得したときの満足を遥かに上回ることがわかっています。
「安いから買う」がダメな理由
「安いから買う」がダメな理由は、安さを演出する「売り手の罠」に陥るからです。私もこの間、激安と評判のスーパーで1房980円の「シャインマスカット」をつい安さから買ってしまいました。普段であれば果物に1000円も出すことはないのに、まんまと買ってしまったのです。もちろん、それによって奥さんが喜んでくれたから「たまにはいいか」と思いましたが、この抑制の効いていない購買行動が積み上がると、ムダの宝庫になります。生活にある程度の潤いは必要ですが、ビチャビチャの濡れ雑巾ではいけないので、「普段の食費以外の予算枠を持ってその中で消化する」「衝動買いは月に●円まで」とかきちんと管理をすることが大事です。
アンカリング効果に気をつけろ
安さを印象付けてくる、アンカリング効果にも気をつけましょう。
これは、最初に提示された金額を基準に、無意識にその後の判断に影響を与えることです。スーパーマーケットで言えば、オーケーストアやロピアなどの安いと評判のスーパーでは、「メーカー希望小売価格」「商談時参考価格」「当店通常価格」などの名称で、割高な外的参照価格を表示した上で、その横に実際の値段を表示しています。
実際、他のスーパーの価格と比べて明らかに安そうであることに加え、「商談時参考価格と比べて6割引」と書いてあったらどうですか?これは買わなきゃ損だと思ってしまいますよね。
このアンカリング効果で、「損失を回避する」行動が首をもたげ、つい買ってしまうわけです。
どっちも2,000円のTシャツ 8割引と値引きなしではどっちがお得?
私も恥ずかしいことに、アンカリング効果にやられやすい人間です。
同じ2,000円のTシャツを例に、ZOZOTOWNで80%オフのTシャツを買うとものすごく得をした気になりますし、ユニクロで上代そのまま(値引きゼロ%)のを見ると、ちょっと買いたくないなと思ったりします。
でも、実際は80%オフは高い上代をつけただけで全く売れてなくて適正価格は2,000円かもしれません。逆に値引きゼロのTシャツは、品質を考えると割安でみんなが飛ぶように買っている商品かもしれません。
このアンカリング効果のせいで、私たちは正しく判断できなくなっているのです。
安くて品質の良い商品もあるし、必ずしも「安いから商品の質が悪い」というのも鵜呑みにできないわけです。
衝動買いをコントロールする方法
価格と品質に絶対的な因果関係はないのだから、価格を主たる理由として、購入を判断するのはよくないのです。では何で判断するのかと言えば、「この商品が自分に合っているかどうか」「自分が本当に必要かどうか」です。
購入する前に、「自分はアンカリング効果にやられているな?」「サンクコストを考えちゃダメだ」「買わなきゃ損するんじゃない、買うからお金がなくなるんだよ」と自分に言い聞かせると、衝動買いのほとんどをコントロールできるようになります。
とは言え、すでに書いてますが、暮らしにある程度の潤いや遊びは必要なものです。あまりにも行動を制限しすぎるとストレスになります。そのため、一定範囲内の予算をもうけて、衝動買いもある程度許容できるようにすると、支出のコントロールも長続きしますし、抑えるべきところを抑えられるはずです。
9割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人」