物販のEC市場は2020年、対前期比で21.71%増と急拡大し、市場規模は12兆円を超えました。EC市場の成長を支える物流施設の需要は拡大していきます。そこで改めて注目したいのが物流REIT。すでに価格は値上がりが続き、分配利回りは他のREITを下回る水準が続きます。一方で、賃料水準は右肩上がりで、長い目でみて手堅く、収益性の改善も見込めます。中期的な物流REITの展望についてまとめました。
急拡大する国内EC市場
物販EC市場は右肩上がりを続けており、2013年の6兆円から2020年には2倍の12兆円となりました(経産省)。
2019年に10兆円を突破しましたが、2020年は一気に12兆2333億円(対前期比21.71%増)となりました。物販EC化率は、19年の6.76%から20年には8.08%になりました。
EC化率の詳細は以下をご覧ください。
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コロナ禍でリアル店舗に買い物に行くという購買行動が敬遠されたこともあり、2020年は一気に物販のEC化率が上がりました。「わずか半年で5年分、業界が前に進んだ」と評する声もあるぐらいです。
今後、EC市場はどこまで拡大する?
今後、この物販ECはどこまで増えていくのでしょうか?
野村総合研究所の「ITナビゲーター2021」を参考に試算してみます。この調査で予測がされているのはトータルの「BtoC EC」です。そこで直近の、経産省調査の「BtoC EC」に占める「物販EC」の比率(63%)をここでも流用します。2つの調査で示されるBtoC ECの市場規模はほぼ同じ(2020年度の市場規模は経産省が19.2兆円、野村総研の予測が20兆円)なので、調査に含める対象はほぼ同じだと考えて良いでしょう。
2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 | 2026 | |
B2C EC | 22.2 | 23.5 | 24.9 | 26.4 | 27.9 | 29.4 |
物販EC | 14.0 | 14.8 | 15.7 | 16.6 | 17.6 | 18.5 |
対前期比 | 111.0% | 105.9% | 106.0% | 106.0% | 105.7% | 105.4% |
その結果、上図(単位:億円)のようになりました。
2026年には物販ECは現在の約1.5倍となる18兆円を突破。年間の成長率は21年度のみ10%と高く、その後は6%成長で推移する感じです。
コロナ禍の急拡大は一過性であるものの、EC化の流れは不可逆。毎年、8000〜9000億円ずつEC売上が拡大していくイメージです。
EC化率の高まりと物流施設への投資
EC市場規模が高まるにつれて、投資が活発化していくのが物流施設です。ECビジネスにおいて欠かせないのは、ソフトウェア面では、インターフェースと在庫管理システム、そしてマーケティングオートメーション機能、配送ルートの最適化ソフトなどですが、ハードウェア面では、巨大なフルフィルメントセンター、拠点の配送センター、小型のデポなどがそれにあたります。
物流センターの種類とREITが投資する物流施設とは
このハードウェア面について詳しく見ていくと、フルフィルメントセンターは自前(庫内運営は委託)、もしくは3PLの施設に委託、拠点の配送センターは自前か配送パートナーの拠点を使うもしくは併用することが多いです。デポは最終拠点なので、いわゆる「ラストワンマイル」。ここはパートナーの拠点を使うことが一般的です。
物流施設と物流施設投資の2つの特徴とは
このうち、いわゆるREITなどが投資対象とする物流施設は、大型のフルフィルメントセンターなどです。EC企業やECも展開する小売業やメーカーが自前で持っている場合、その仕事を受託する3PL(サードパーティロジスティクス)業者が保有する場合に分かれますが、投資する側としては別に大きな違いはありません。
物流施設は、住宅やホテルと同様に「立地が命」です。が、地価の高い都心の物件は不要です。トラック物流を使いますので、「高速道路のインターチェンジ」の近接地に広大な敷地を必要とします。また、最近では人手不足が激しいので、人材を確保しやすい、例えば大規模な住宅地も近接にあるといった立地へのニーズが高まっています。
敷地を獲得する際のライバルとなるのは郊外型の大型商業施設や工場などですが、そもそも地価がそんなに高いわけではないので、住宅や都心商業施設などと比べて安上がり。したがって、他の施設と比べて、建物の価格の比率が高くなる傾向があり、また減価償却年数も他よりも短くなります。加えて、管理コストも修繕コストも他の施設より低くて済むので、キャッシュ効率が良いのも物流施設投資の特徴です。それは、利益超過分配が出やすいということも意味します。
もう1つの特徴が、物流施設1つあたりのテナント数 は1社もしくは数社の場合がほとんどだということ。これが管理コストの低減につながる一方で、テナント が抜けると、その間の賃料がゼロになることもあり得ます。
ただし、物流センターは事業者からして見たら、長期戦略に立ったものですので、短期で抜けるということは考えられませんし、自社の特性に合わせたカスタマイズが物流施設でなされていることが多いです。したがって、基本的には長期にわたって賃貸契約が継続されるのも物流施設の特徴と言えます。
物流施設の需要と供給の状態
次に物流施設の需要と供給のバランスについて確認していきます。
一五不動産情報サービスが公開していたデータを元に作成したのが、上のグラフ「東京圏物流施設の空室率、賃料、賃貸可能面積の推移」(四半期ごと)です。
賃貸可能面積は「供給」のこと。これが右肩上がりだということは、毎四半期ごとに新たな物流不動産が増えていることを意味します。
供給が増え続けている一方、2021年1月までは空室率がどんどん下がっています。つまり、供給が追いつかない状態が続いていたわけです。ちなみに0.5%を切るという水準は、まさに「逼迫」の一言。施設を使いたくても使えない事業者がいるような状態です。
これが2021年4月になって、空室率が落ち着いてきました(ただし、それでも1.5%という水準は、歴史的にかなり低いです)。一方で、坪あたり賃料は、緩やかに右肩上がりで、2021年7月の賃料は2年前比で8.5%上がっています。賃料については、今後も少しずつ上がっていくことが期待されます。
関西圏は若干空室率が高いものの同様の傾向が見られます。
賃料は今後も緩やかに上がり続けると想定され、物流REITにとってはポジティブな環境だと言えるでしょう。
物流施設の投資の今後
こうした物流施設への投資拡大は今後も加速していくものと思われます。総合不動産サービス大手のジョンズラングラサールは以下のように物流不動産の今後を予想します。
投資額は2020年に1兆3800億円と2019年比で1.5倍となり、オフィスと肩を並べるセクターとなっており、大型物流施設の開発面積は、東京圏で2019年の200万㎡から2020年に215万㎡、2021年には250万㎡、2022年には330万㎡になる見込みです。
ただし、物流不動産が好調なことは誰もが知っていること。それだけに物流REITに買いが集まり、利回りは他の不動産投資銘柄と比べると、見劣りします。
それでも、今後中期にわたって、堅調かつ需要が拡大していくセクターはこの人口減少と高齢化が進む日本においてあまりありません。日本の株式市場においては、限られた成長セクターと言えるわけです。
それだけに、現在は割高でも中長期的な需要を鑑みれば、分配金に加えて値上がりも想定できる、手堅い投資先だと言えます。
一方で、物流施設を巡る物件の奪い合いは常態化しており、価格がどんどん上がっています。これが賃料上昇の要因となっているわけですが、同時に、REITも割高な価格で購入せざるを得ず、REITの取得時キャップレート(還元利回りのこと 計算式は(家賃収入-経費)/ 不動産価格)は低下する一方です。
いまは需給ギャップの観点から、ほとんどの物流REIT事業者が手堅い運用益を出せていますが、今後は先行組(立地条件が良い、高いノウハウ、大手EC事業者とのパイプが強い)と後発組とで格差が出てくることも考えられます。また、コロナ禍で不動産投資を巡るマーケットが激変したため、総合型REIT業者が物流施設への投資を強化する動きも顕著になっています。「物流REITなら割高だけど、どの銘柄も手堅い」という時代は早晩終わり、物件の中身や物件のエリア配置などを精査することが必要になってくるでしょう。