会員制オンラインホールセールクラブを展開するBoxed(ボックスド)がSPAC(特定買収目的会社)のSeven Oaks Acquisition Corp.,(セブン・オークス・アクイジション、ティッカーシンボル:SVOK)との統合により、上場することがわかりました。このボックスドは日本の最大手小売チェーンのイオンが出資する企業です。ボックスドのビジネスモデル、強み、成長性、上場後の戦略について解説します。
ということでボックスドのビジネスモデルを分析してみました。
ボックスドもSPAC通じて上場へ
ボックスドはSPACのセブン・オークス・アクイジションと合併して、米・ナスダック に上場することになりました。
SPACとは、Special Purpose Acquisition Companyの略で、日本語では特別買収目的会社と呼ばれます。SPACとは、未上場会社を買収する目的で設立された会社です。
SPACについての詳細は以下をご覧ください。
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Boxed(ボックスド)とは
SPACを通じて上場するボックスドとは一体どんな会社なのでしょうか。同社は2013年、現CEOのチー・フアン氏など数名のメンバーによって創業された、現在ニューヨークに本拠を置く会員制のオンラインホールセールクラブです。
ホールセールクラブとは
ホールセールクラブとは、Costco(コストコ)やSam’s Club(サムズクラブ、ウォルマートの1事業)を代表例とする、倉庫型の卸売ビジネスです。巨大な倉庫の中に、大容量商品を大量にストックして、非常に安い値段で販売する、低粗利率・低販管費率タイプの小売業です。品揃えは絞り込んで、1品あたりの売上高を極大化、それによってバイイングパワーを得て、有利な条件で仕入れられるため、いっそう低価格で販売できるようになる、というビジネスモデルです。例えばコストコの場合、利益のほとんどは年会費から得ています。日本でもコストコが各地にあるので分かる通り、飲食店や業者などのプロ顧客だけでなく一般客も多いのが特徴です。
ボックスドのビジネスモデル
さて、そのホールセールクラブ型ビジネスをオンラインで行うというのがこのボックスドです。
ボックスドの品揃え
取扱商品はどれも大容量で、例えばペーパータオルは12ロール、ドリトスも1オンスサイズ3袋単位での販売となっています。
取り扱いは、①スナック、②飲料、③家庭用品、④加工食品、⑤ビューティケア、⑥ヘルスケア、⑦ベビー、⑧ホームグッズ、となっています。
カテゴリーだけを見ても絞り込まれているのが分かると思います。スーパーマーケットの品揃えで言えば、生鮮(青果・鮮魚・精肉)、総菜、ベーカリー、デイリー(牛乳や乳製品をはじめとするチルド品)、酒類、冷凍食品、医薬品を品揃えしていません。
アイテム数は約1600アイテム。日本のコンビニが約3000ですからその約半分しかありません。徹底的に用途機能で絞り込んで一品あたりの販売量を高め、圧倒的な低価格を実現しているわけです。またアイテム数が少なければ荷姿も効率化できるので物流面でもメリットがあります。
ボックスドのユニークなエクスプレスサービス
ボックスドは全米に4つのフルフィルメントセンターを保有しており、オーダーから2日で配送する体制を整えています。
ただ、この展開カテゴリーでは消費者にとって普段の生活に必要なものが揃わず不便です。そこで、一部エリアではエクスプレス(Express)という買い物代行サービスも展開しています。これは生鮮や冷凍品といった温度帯管理が必要な商品を短時間配送するものです。代行と書いたのは、注文者の最寄りのコストコやリドル(ドイツ系低価格スーパーマーケット)でボックスドのスタッフが商品をピックアップして、注文者の指定した時間と場所に届けるというサービス内容だからです。管理コストがかかり大量のロスを見込まなければならない温度帯商品は自前で扱わず、「他所のスーパーマーケットからピックアップすればいいじゃん」という一見合理的そうな考えです。とは言え、ある程度の売上規模になれば自前で扱った方がコストは下がってきます。生鮮管理ノウハウを持たない点が課題となりますが、規模のキャズムを越えれば、大型で自動化された生鮮フルフィルメントセンターに投資することも考えられます。
支持基盤はミレニアル層
ボックスドは「ミレニアル世代のコストコ」とも言われていて、「会費無料、お金、時間、ガソリンを節約」(No Membership, Save Money, Time & Gas)がキャッチフレーズ。自分にとって大切なものだけに時間とお金を使う傾向が特に強いミレニアル世代からの支持を得ています。
配送料と有料のボックスド・アップとは
配送料は、一定額以上の購入で基本無料となりますが、ミニマムオーダー未満の場合は5.99~9.99ドルの間でチャージされます。また、エクスプレスサービスは、59ドル以上の購入で無料、それ未満の場合は7.9ドルチャージされます。
ヘビーユーザー向けのサービスが「ボックスド・アップ」(Boxed Up)。これは19.98ドル以上の購入であればいつでも何回でも送料が無料になり、買い上げ額の2%がポイントで貯まるサービス。その他、ボックスド・アップ会員限定の週間、月間割引も定期的に行われます。この会費は年間49ドル。アメリカにおけるアマゾンプライムの年会費119ドルと比べるともちろん安いですが、当然ボックスドのサービスには映像や音楽サービスは付いていません。
ウォルマートが買収したJet.comと酷似?
このように見ていくと、品揃え、値段、取り扱いアイテム数など、ビジネスモデルの多くの面で、Jet.comと類似していると思います。
Jet.comは2014年にシリアルアントレプレナーのマーク・ロアによって創業されたロープライスオンライングロサリー小売業です。サブスク型の2016年にEC強化を図りたかったウォルマートによって買収されています。ウォルマートとしてはJet.com以上に、この天才マーク・ロアを手に入れたかったと言われていて、実際彼をウォルマートのEC事業トップに招聘して以降、ウォルマートのデジタル化は急速に進んでいます。
なお、Jet.comは2020年6月にWalmart.comに吸収される形で静かにそのビジネスが終了しています。
イオンとの提携
非上場企業のボックスドは度重なる資金調達を行ってきました。2016年には1億3200万ドルを調達、2018年には日本のイオングループなどから111億円を調達し、ボックスドの評価額は600億ドルに達しました。
イオンはデジタルシフトに伴うグループEC売上を拡大する目的でボックスドに出資したと言われています。21年4月にはボックスドがスタートさせたばかりのSaaSを横展開する形で、イオンはマレーシアでバーチャルモールを開業する計画が各種報道で明らかになっています。
このように、ボックスドは本国アメリカだけでなく、イオングループとの連携によりアジアでも独自性の高いビジネスを展開していくことが期待されます。
ボックスドの業績や成長性は?
さてボックスドの業績に関する詳細なデータはまだありません。
そこでSECのサイトにアップされているカンファレンスのスクリプトなどをもとにまとめていきます。
ボックスドが狙う市場の動向とボックスドの成長性
- ボックスドが狙うのはオンライングロサリー市場
- 同市場は全米で約1000億ドル(11兆円)の規模
- 同市場は年平均20%成長、5年後に2500億ドルまで成長する見通し
- ボックスドは2015年から2019年まで年平均50%以上の成長を実現
- なかでも高い成長性のBtoBが牽引
- 2022年度は40%の成長を見込む
ボックスドの強み
- シンプルでユーザーフレンドリーなUI(アイテム数の少なさにも起因)によって客単価が高い
- 一般顧客の客単価は約100ドル、購入点数8点
- BtoB顧客はその2倍。
ボックスドの収益構造
- 顧客への商品販売
- 買い物代行
- 取り扱い商品の広告
3つ目の広告はアマゾンも実施しているものですね。ボックスドによるとこれはかなり利益率の高いビジネスということで、流通取引総額(GMV)に占める広告収入の割合を増やしていきたいという考えのようです。取引メーカーにとっても侮れない販売力のあるサイトに成長したということですね。
今後のボックスドの投資規模
- IPOに伴い、3億3400万ドルの現金を受け取る
ということで、これを今後の成長に使っていくわけです。
今後の成長のポイントは、以下の3点。
- 品揃えを絞り込んだまま顧客ニーズを満たせるか
- BtoB顧客をどれだけ囲い込めるか
- 販売力拡大に伴い、広告収入を増やせるか
特に品揃えは、バイイングパワーと客単価向上の源泉です。品揃えを増やしてしまうとボックスドの良さは消えてしまうと考えられるからです。品揃えを絞り込んだままラインロビングを増やして、お客のニーズに答えていくことが不可欠ですね。
あとはBtoBがどこまで伸びていくか?BtoB顧客にとって短時間で必要なものを揃えられるのはメリットなので、①が維持・改良されていけば、結果はついてくるものと思います。
株価は低位安定も高騰シナリオの可能性も低くない
当然投資過多なのでしばらく赤字でしょうが、一定の規模を確保してマーケットの台風の目になる可能性は高いと思います。
統合発表後、セブン・オークス・アクイジションの株価は多少上がったものの、IPO時の価格は下回っている状況が続きます。マーケットがボックスドの将来性を判断しようがない状態にあるわけです。
しばらく我慢の展開が続くと思われますが、アマゾンやウォルマート、ターゲットやクローガーといった、オンライン、オフライン問わないグロサリーリテーラーによる買収提案で株価が跳ね上がるといったシナリオは中期的に低い可能性ではないと思います。